来年の東京オリンピックパラリンピック、目前に迫った2019年ラグビーワールドカップ開催の前に、これまで本連載で触れてきませんでしたが、タトゥーが入った外国人観光客の入浴について考えてみたいと思います。
外国人がファッションやアイデンティティーで入れるタトゥーと、反社会的勢力をほうふつとさせる日本の入れ墨とは非なるもの。温浴施設側で、外国人のタトゥーと日本人の入れ墨を区別して入浴制限するのはとても難しいことでしょう。
この話題は、物事の善悪で語れないし、ルールづくりも難しいのが本音です。
こんなエピソードを聞いたことがあります。某リゾート施設を全国に展開している社長が、就任した時に一番最初にやった仕事が、一部の施設で「入れ墨OK」ということだったそうです。その結果、その温浴施設は入れ墨が入った方に大人気となりました。同時に他のお客さまからのクレームが殺到し、結局、入れ墨が入ったお客さまをお断りする決断に至ったそうです。この出来事は2000年代前半のことです。まだ訪日外国人観光客数も少なく、「インバウンド」という言葉が業界用語だった頃の話です。
それから時がたち、タトゥー問題が浮上するきっかけとなったのは、13年に北海道恵庭市の温泉施設がニュージーランドのマオリの女性が宗教上の理由で顔にタトゥーを入れていたために、入場を断ったことでしょうか。この頃からラグビーやサッカーのW杯のテレビ中継画面で選手たちが施したタトゥーを目にする機会が増え、ネットでも話題となりました。タトゥーに貼るシールが市販され始めたのもこの頃。ただシールを用意している施設に尋ねてみると、多くは利用されてないようです。
最新の動きも調べてみました。大阪の宿泊施設では「和モノ」「洋モノ」によって分けて入場制限をしているところもあるようですが、施設側が判断することでトラブルが起きた話は聞きませんでした。
外国からのお客さまの玄関である成田空港周辺では、いま温浴施設の建設ラッシュです。その多くは、タトゥーOK、というよりむしろ歓迎というルールでオープンするそうです。
そして最近、定着しつつある「タトゥーフレンドリー」という言葉。東京都内の銭湯で使われ、外国人の多い温泉地でも愛用され始めました。
この言葉は外国人の入浴制限がないことを表記しています。
「タトゥーフレンドリー」
言葉の響きはとてもいい。
「タトゥーOK」というよりも、よほど外国人を歓迎している姿勢が見えます。
個人的には、ここが着地点になればいいなと思っています。
これまでの歩みは、日本人が外国人が施すタトゥーを理解するための過程だったような気がします。
日本人のお客さまの理解と容認が外国人観光客への好感につながれば、これほどいいことはありません。
(温泉エッセイスト)