関西で拡大「オープンファクトリー」
体験で差別化、ブランド力向上
産業観光として、ものづくり企業が生産現場の公開や体験の提供を行う「オープンファクトリー」。新潟県燕三条の「工場の祭典」や東京都墨田区の「スミファ」などの取り組みが有名だが、関西でも「体験」を通じたブランディングや、差別化、人材育成につなげる動きが広がっている。
オープンファクトリーは、オープンイノベーションや地域活性化、インバウンドなどの効果をもたらす地域産業活性化ツールの一つとして全国で展開されている。関西では2025大阪・関西万博に向け、ムーブメントを高めるコンテンツとして期待されている。
近畿経済産業局は昨年、近畿2府5県で「オープンファクトリーの取り組み」に関する調査を実施。開始の目的は既存顧客への技術力、ブランド力のアピールや新規顧客の開拓など、社外(取引先など)への働き掛けが約8割を占めた。取り組み後は、社外への働き掛けが約5割と減少した一方、会社方針の共有やモチベーションの向上、自発的な行動の表現など社内(従業員)への働き掛け効果が約1割から約4割となるなど、人材育成の効果があることが明らかになった。
錦光園の「にぎり墨」体験
江戸時代から墨職人の家系として昔ながらの製法で「奈良墨」を提供する錦光園(奈良県奈良市)。日本の墨の95%は奈良市で作られ、錦光園では生の墨を手で握って作る「にぎり墨」の制作など、香り漂う工房で体験が楽しめる。
オープンファクトリーを始めたきっかけを7代目の長野睦氏は「約15年前から、墨への需要が落ちてきた。墨を使わなくなってきた学校や工房で墨を伝えられる機会を作りたいという思いで始めた」と話す。
効果について長野氏は「取り組みは広がり、近年は年間約3千人に体験してもらえるようになった。スタッフは伝える場が広がり、仕事への誇りを持ち、モチベーションが上がった」という。社外との取引量増加や社内の活性化にもつながっている。
今後、「産業観光を通じて興味のない人や、昔使っていた年配者に利用を促したい。旅行会社との産業観光ツアーの商品開発、学校への出張授業、オンライン講座などを積極的に行っていきたい」と方針を示す。
羽車の工場見学
大阪府堺市で、封筒をはじめ紙製品の製造販売を行う100年企業「羽車」。オープンファクトリーは、社員が発案し、工場見学会や地域交流イベント「かるた市」で開始した。企画広報部の永田留美マネージャーは、「当初は、会社の取り組み紹介やPRを目的に実施した」と話す。
継続する中、参加者はかるた市で約600人、工場見学会で数十人が集まる人気イベントとなった。「社外の人と話す機会がなかったスタッフが勉強してアウトプットし、知識量の向上につながるなど、人材教育、育成につながっている」と永田マネージャー。
今後について「時代に合わせて内容を変えていく。SDGsなどをテーマに、環境への取り組みの紹介なども行いたい」と答えた。
コンペイトウミュージアム
「ものづくりのまち」として知られる大阪府八尾市にある大阪糖菓は、2003年に「コンペイトウミュージアム」を堺工場、八尾工場に併設。来場者にコンペイトウの製造工程や歴史を伝えている。現在は、福岡にもミュージアムを設置している。
3代目である野村しおり社長は「17年前、コンペイトウを作っているだけでは今後厳しい状態になる。歴史や文化を伝え、地域に興味を持ってもらうことが大切だ」と思い、ミュージアムを開館した。
7年前には工場見学ブームがあり、14年には年間で約2万5千人が訪れるようになった。野村社長は「開館当初はスタッフにしわ寄せがあるなど苦労もあったが、サービスや商品の質が上がり、コンペイトウの価値が高まった。同時に、職人がお客さまの生の感想を聞いて前向きになった」と成果を語る。
現在は、新型コロナの影響で受け入れを縮小。少人数の貸し切りなどを通じて、今までより深い取り組みの発信を行う予定だ。
米村猛局長
関西エリアでのオープンファクトリーの活性化を推進する近畿経済産業局の米村猛局長は、「関西には、歴史、文化などを伝える産業観光が集約している。オープンファクトリーは、ただ物を売って知ってもらうだけのものではない。これまでつながりがなかった営業と工場の人が『思い、業務、技術・製品力』の可視化を行う過程で『共通言語』を生み出すなど、『人材育成効果』も出ている」と話す。
近畿経済産業局は、事例、効果などを紹介する「関西オープンファクトリーフォーラム」も行っている。
関西の見学可能な産業施設はホームページ(https://www.kansai.meti.go.jp/2kokuji/tvlist/tvindex.html)で確認できる。