参院選が終わった。自民党が大敗、予測されたように、逆風の中で大物議員が接戦で相次ぎ落選。関心事だった自民党比例区の藤野公孝氏(59)=国土交通大臣政務官=も惜敗した。二階俊博・自民党国会対策委員長ら関係議員とともに、党の観光基本法改正プロジェクトチームの座長として「観光立国推進基本法」を超党派で成立させ、懸案の「観光庁」新設へ布石を打っただけに、同氏の落選は、今後の観光推進に大きな打撃を与えることになった。はからずも観光業界の組織的な集票力のなさを露呈した形となったが、業界では「捲土重来、再挑戦を」の声が上がっている。
7月29日投開票された参院選で、藤野氏の得票数は7万8千票余りにとどまり、前回01年の票数を大きく下回って落選した。愛媛選挙区では、自民党観光産業振興議員連盟会長の関谷勝嗣氏(69)が、民主党などが推薦した新人候補に敗れて議席を失った。年金記録や事務所費の問題、閣僚の失言など自民党への“逆風”は強かったとは言え、観光立国推進基本法の成立、基本計画の決定、さらには「観光庁」構想が浮上する好ムードの中、観光業界は、観光政策に精通する現職2候補を国会に送ることができなかった。今後の観光振興の減速が懸念される状況となった。
藤野氏は、旧運輸省で観光部長や大臣官房総務審議官を歴任し政界入り。自民党では観光基本法改正プロジェクトチームの座長を務め、観光立国推進基本法の成立に尽力した。こうした実績を背景に、観光業界の幅広い支援を受けて2回目の当選を目指した。しかし、得票は伸びず、前回の9万4332票を大きく下回る7万8500票で落選した。
藤野氏の当選に必要な票数は、15万票とも、20万票とも言われていたが、同じ自民党比例区で当選した旧建設省出身の元国交省事務次官の新人が22万票を獲得したのに比べると対照的な結果だった。
比例区は、知名度やタレント性にも大きく左右されるが、建設業界などに比べて、観光産業が組織的な集票力に欠けることを露呈し、今後の政治課題の解決に大きな影を落とすことになった。
全国で激戦となった1人区の愛媛選挙区では、観議連会長で参院2回、衆院8回の当選歴を持つベテラン、関谷氏が落選。31万8304票を獲得したが、サッカーJリーグの元選手という知名度を持つ新人候補に6万票余り及ばず、当選は果たせなかった。
観光振興に理解が深い自民党候補で当選したのは、群馬選挙区の山本一太氏(49)=党観光特別委員会副委員長=だけだ。自民党候補が相次ぎ落選した1人区の中で、山本氏は、圧倒的な強さをみせ、53万114票を獲得、次点候補に約30万票の差を付けて早々に3回目の当選を決めた。
自民党は、改選の64議席を37議席に減らし、89年に宇野首相が退陣した過去最低の36議席に次ぐ大敗を喫した。新勢力は公示前比27議席減の83議席となり、参院第1党から初めて滑り落ちた。公明党の獲得議席も9議席にとどまり、参議院の非改選を含む与党の議席は過半数を割り込んだ。民主党は、60議席を獲得し参院第1党になったが、単独過半数には達していない。
確かに自民党候補への“逆風”は強く、藤野、関谷、両氏の敗因にも候補者への総合的な評価に加え、さまざまな要因があるだろう。しかし、藤野氏の得票数などをみると、観光業界の政治への意思反映が結実したものかどうか。「観光業界の力不足は否めない」との声も業界からは聞かれ、支援態勢に課題も残る結果となった。
観光立国推進基本法の成立をはじめ、観光業の発展に新たな道筋が付き始めたが、「観光庁」の創設、旅館の金融・税制問題、ニューツーリズムの確立、少子高齢化に悩む地域活性化など課題は山積している。観光振興の基盤整備に向けて政治力を必要とする場面は多い。
参院選の結果が観光行政に停滞をもたらすことはないだろうが、観光業界にとって政治力の損失であり、今後の政策推進の減速につながるのではないかと憂慮される。
参院選の結果について、日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)の舩山龍二会長は「観光立国推進基本法の成立にご尽力された藤野先生を当選させることができず、誠に残念であり、観光業界にとって大きな損失だ。与党に対する逆風があったにせよ、わが業界の力不足は否めない。この逆境を乗り越え、捲土重来を期し、再び国政に戻って活躍されることを切に祈る次第だ。業界としても変わらぬ支援を続けていきたい」と話している。 |