「中小企業版産業再生機構」といわれる全国47都道府県の中小企業再生支援協議会は、平成15年2月の設立以降、今年3月までに再生を図る中小企業1万1443社の窓口相談を受けた。このうち16%に当たる1793社が支援対象となり、1379社の再生計画策定支援を完了。残り414社については再生計画の策定を現在支援中だ。中小企業庁は1379社の支援により8万8925人の雇用を確保したとしており、その実績を強調している。
中小企業再生支援協議会は、中小企業庁の中小企業支援策の一環で、各都道府県の商工会議所内などに設置された。弁護士、中小企業診断士、税理士などの専門家が企業の再生に向けた助言や、再生計画策定の支援を行っている。
累計1万1443件の相談のうち、再生計画策定支援を完了したのが1379件。相談段階で企業の課題が解決した事例が5138件(全体の45%)あった。このほか、再生の可能性が極めて低く、対応が困難な事例が794件(同7%)あった。これらについては地元弁護士会への紹介などを行った。
平成18年度は485社の支援を完了し、前年度比47件増。その数は年々増加している。
支援を完了した案件を業種別にみると、製造業が537社で最多。以下、卸売・小売業295社、飲食店・宿泊業194社、建設業153社、運輸業71社、サービス業61社──などが続く。
支援が完了した案件のうち、旅館・ホテルは以下の事例などが報告されている。
〔A旅館〕(売上高9億6200万円、従業員56人)
企業の状況=建物の改装工事による過大投資により、過剰債務を抱える状況となった。さらに全国的な宿泊施設乱立による客室の供給過剰、消費者の嗜好の変化による宿泊客の大幅な減少等により、財務内容は悪化し、自社再建が困難な状況である。
目標=2年で黒字体質へ転換。2年で実質債務超過解消。5年で有利子負債の対CF(キャッシュフロー)倍率6.4倍以下。
再生計画の概要(事業面での再生)=(1)会社分割を実施し、新経営陣を出資者とする新会社が事業継続、旧会社は特別清算(2)併営する旅館のコンセプトを明確化し、顧客ターゲットを絞り込み差別化(3)エージェントに依存した売上構造から脱却するため、ネット、ダイレクトマーケティングによる新規顧客の開拓を強化(4)管理会計の導入、材料費、外注費等の見直しによる経費削減(5)代表取締役は経営責任を取り役員から退任。
再生計画の概要(財務面での再生)=(1)取引金融機関による新規融資および既存借入金のリスケジュール(2)清算過程における取引金融機関による実質債務免除(3)取引金融機関が再生ファンドに債権と譲渡(再生ファンドは会社分割後に債権を一部放棄)(4)清算過程における経営者一族による債務免除、株式放棄(5)経営者私財提供(6)法人所有の遊休資産売却による借入金の圧縮。
〔B旅館〕(売上高1億2千万円、従業員7人)
企業の状況=山間部の温泉旅館として開業。当該温泉地において、上ランクの旅館として地位を築いている。新館を増築した結果、税引後利益は黒字を続けているものの、売上高が下落傾向にあり、借入金返済に苦慮している状況。
目標=2年で黒字体質へ転換。5年で有利子負債の対CF倍率10倍以下。
再生計画の概要(事業面での再生)=(1)販売促進、広報活動の強化(インターネットによる受注体制の強化、旅行雑誌等への掲載促進、旅行代理店・主要得意先への訪問営業活動)(2)集客の目玉として増設した露天風呂のプラン等の売れる商品を作成し、広報・集客活動を強化(3)業務オペレーションの改善によるコストダウン、人材育成・意識改革の実施、役員報酬の削減。
再生計画の概要(財務面での再生)=取引金融機関による既存借入金のリスケジュール。
〔Cビジネスホテル〕(売上高2億3千万円、従業員21人)
会社の状況=近年のビジネスホテル間の競争激化による売上高の減少、飲食ビルの老朽化に伴い賃貸価格の下落が続き、駐車場等を売却したもののいまだに過剰の有利子負債を抱え財務体質がぜい弱化。メイン銀行が大半の債権をサービサーに売却、サービサーからは返済計画の提示が求められている。
目標=4年で実質債務超過解消。4年で有利子負債の対CF倍率10倍以下。
再生計画の概要(事業面での再生)=(1)テナントコンセプトの確立、販売促進策の構築とともに最低限の設備投資継続(2)経営力・営業力強化のため、組織体制を改善(3)役員報酬を中心とする経費の削減(4)社長は経営責任をとり退任予定。
再生計画の概要(財務面での再生)=(1)取引金融機関によるサービサー債権の一部肩代わり新規融資(2)金融機関による設備資金の新規融資(3)サービサーは残債権を役員の親族に譲渡。 |