バリアフリー(BF)新法の施行や高齢者への配慮から、標識や交通機関、宿泊施設などでのBF化が進んでいる。半面、社会的認知度が低いためか対応が遅れているBFの領域がある。色盲や色弱と称されている、色の識別に困難を伴う人への対応だ。このような人は日本国内に300万人以上、白内障などの疾病による色弱者を含めるとその規模はさらに大きくなる。これらの人を含め、できるだけ多くの人が必要な情報を正しく得ることができるよう配慮したデザインがある。「カラーユニバーサルデザイン」(CUD)だ。色弱者の利便性向上のため、CUDに取り組む企業が出てきているが、観光業界での対応は遅れ気味だ。
色弱人口2億人
色弱者はアジア系の人では日本人と同じく、女性の500人に1人、男性の20人に1人が、フランスや北欧系の人の場合、男性の10人に1人いるとされ、世界全体では65億人中約2億人が色弱とされる。外客誘致の観点からも、CUD対応による色弱者の利便性向上は観光業界にとって避けて通れない問題だ。
JALツアーズはこの下期から、CUDに対応したパンフレット作りに取り組む。「なるべくすべての人に、伝えたい情報が伝わるようにするのが目的」(マーケティング部)。パンフレットは、従来通り、1つの商品ブランドで地域別に1冊と変わらない。「誰もが同じように利用できる」というのがユニバーサルデザインの考え方であるからだ。
使用する文字色やフォント、強調の仕方を工夫し、色に頼らないパンフレットづくりを進める。例えば、価格や注意点など、従来は文字色を赤色にするなど色だけで強調していた部分を、アンダーラインを併用するなどした。同社ではCUD化のためのガイドラインを作成、パンフレット作成部署に配布し、対応を図っている。今後は商品チラシや同社のホームページ(HP)でも、CUD化を進める方針だ。
旅行会社で全社的にCUDへの取り組みを行ったのはJALツアーズが初めて。CUDという言葉すら知らないという旅行会社が多い上、「作成するパンフレットは膨大な量。パンフレットを作るたびに、特別仕様のものは作れない」と指摘する旅行会社もあり、CUDについての理解不足は否めない。
宿泊業も対応が進んでいるとはいえない。88年からBF化に積極的に取り組んでいる京王プラザホテルにしても「社内で検討を始めたところ」と具体的な取り組みには結びついていない状況だ。
観光関連業界に目を向けると、すでにCUDを取り入れている企業がある。地図や観光地のガイドブックなどで知られる昭文社は、06年にCUDに対応。電子地図ソフト「スーパーマップルデジタル」などでCUDに対応した文字の標記や色調を取り入れる。
東京メトロは都印刷業組合墨田支部が作成したCUDに基づく地下鉄路線図の技術を採用。各駅に配置した「視覚配慮料金表」で、CUDを取り入れている。「施設のBF化も含め、銀座駅などから順次対応を図っている」という。
自治体も関心
CUDの普及活動を行っている、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)によると、現在相談で多いのは、企業がステークホルダーに対して発表する「CSR(企業の社会的責任)報告書」のCUD化だという。「顧客や株主にも様々なアイデンティティの人がいるというという認識に立ってのことだろう」と伊藤啓副理事長はみる。
自治体でも、静岡県や神奈川県はCUDに絞ったガイドラインを策定している。旅行業界以外では、少しずつだが着実に取り組みが浸透しているようだ。
ウェブサイトについてみると、熊本県や新潟県をはじめ多くの都道府県が、ウェブサイトの作成ガイドラインを制定、CUDを含め、利便性の向上を進めている。滋賀県近江八幡市や京都府宇治市などでは、ウィンドウを通してHPの色調を変えたり、拡大表示などができるソフトを導入、高齢者など幅広い色弱者への配慮を試みている。
IT対応進まず
半面、旅行業者や宿泊施設、観光協会などのウェブサイトは、旅行関連情報の最初の窓口となりつつあるにもかかわらず、CUDに配慮したページは少ない。
05年6月に国土交通省が出した「観光活性化標識ガイドライン」には「高齢者や弱視者、色覚障害者に配慮して、『青と黒』、『黄と白』及び『赤と緑』等の見づらい色の組み合わせは用いない」と明記されている。これは標識に関するものだが、印刷物やウェブサイトについてもいえることだろう。
JALツアーズの取り組みのように、強調部分の文字色やフォントの大きさなどをマニュアル化し、パンフレットやウェブサイト作成の際にはそのルールにのっとるだけで、簡単にCUDへの第一歩を踏み出すことができる。
個人旅行の多様化、ネットエージェントを利用する消費者の拡大が進む中、各旅行業者はニッチ需要やアクティブシニア需要の獲得に励む。だが、これらの層と比較しても、色弱をはじめとするハンディキャップを抱える人々や高齢者は看過できない規模だ。交流人口の拡大が叫ばれる今、観光業界でもCUDへの対応が求められそうだ。
▼バリアフリーとユニバーサルデザイン
バリアフリーは高齢者や障害者などの生活弱者が、社会生活を営む上で障壁となるような物理的・精神的障害を取り除くことを指す。ユニバーサルデザインは障害や年齢を含め、文化や言語、性別などあらゆる違いに関係なく誰もが同じように利用できるようなものづくりを指す。バリアフリーの発展形とされる。
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