観光庁は、観光産業イノベーション促進事業の一環で、旅館・ホテル業の活性化に向けた巡回セミナーやアドバイザー派遣事業を今月末からスタートさせる。2009年度の補正予算を活用した事業。複数の旅館・ホテルの参画による“面的”な事業再生、バックヤード業務の協業化などをテーマに、経営コンサルタントなどの専門家による講義、専門家の地域への派遣を行う。旅館・ホテルの連携により地域一体の経営改善を促進したい考えだ。
巡回セミナー、アドバイザー派遣事業ともに、観光庁から事業を受託した財団法人日本交通公社が実施する。
巡回セミナーは、「旅館・ホテルの協働による観光地の活性化・面的再生セミナー」の事業名で、今月28日の静岡・熱海会場を皮切りに、全国11カ所で開催する。旅館・ホテルの経営者のほか、行政や金融機関の関係者が対象。各会場の参加定員は30人程度。
事業再生の課題や手法について経営コンサルタントらが解説するほか、個別相談の時間も設ける。講師は、日本観光旅館連盟の企業再建問題専門委員を務める川野コンサルティングの川野雅之氏、国際観光旅館連盟の有志で設立した旅館再生支援会社スパークスに参加している辻・本郷税理士法人の金子均氏、全国旅館生活衛生同業組合連合会の顧問経営コンサルタントの渡辺清一朗氏の3人が分担して務める。
アドバイザー派遣事業は、旅館・ホテルなどからの申請に応じてアドバイザーを各地域に派遣する。地域一体の事業再生、各種業務の協働化などに取り組もうとしている、あるいは、すでに取り組んでいる複数の旅館・ホテルが対象。派遣地域は全国10〜20カ所。今年度中に1地域当たり2、3回派遣する。今月28日以降派遣を始める。
アドバイザーには、セミナー講師の3人のほか、ツーリズムマーケティング研究所の井門隆夫氏、サービス産業研究所の大橋秀行氏、福島・会津東山温泉で旅館の面的再生に取り組むくつろぎ宿の深田智之氏、長崎・雲仙温泉で旅館の面的再生に携わる日本ベストサポートの森谷義博氏らを予定。地域の課題に応じて人選を行う。
セミナーへの参加、アドバイザー派遣申請は、すでに受け付け中。いずれも一定数に達し次第、締め切る。詳しくは、財団法人日本交通公社のホームページ(
http://www.jtb.or.jp/)まで。
旅館業の活性化へ
連携、協働後押し
セミナー開催やアドバイザー派遣の事業は、観光庁が今年2、3月に旅館経営者などをメンバーに開催した「宿泊産業の活性化に関する懇談会」での議論を踏まえた施策だ。懇談会では、複数旅館による面的な事業再生、協業や分業による経営資源の集約、人材の育成確保などに関する施策のあり方などが検討されていた。
連携、協働による活性化策を重視するのは、旅館・ホテル街全体の集客力が落ち、多くの施設の経営状況が悪化している場合、1つの施設が再生しても価格競争の激化などを招くだけで、観光地、温泉地全体の活性化にはつながらないケースもあるため。懇談会では、複数旅館の再生受け皿会社を設立するなどの手法で、面的な再生を促す必要性も指摘されていた。
観光庁観光産業課の輕部努課長補佐は「今回の事業を旅館・ホテルの連携、協働を考えるきっかけにしてほしい。次の段階に進もうという事例が出てくれば、支援事業の予算化なども検討し、地域活性化につながるよう後押ししたい」と話している。