訪日外国人旅行者を2千万人、3千万人にする目標を踏まえた受け入れ環境整備として、宿泊施設のあり方を検討してきた観光庁の検討会(座長=平尾彰士・立教大学観光部特任教授)は19日、5回にわたる検討結果を提言としてまとめた。法改正を含め今後の運用が注目される国際観光ホテル整備法の登録制度については、一定のサービス水準を保証しているとして「登録基準は基本的に現状を維持」するとの方向性を示した。設備などの点で登録基準には達しないが、受け入れに意欲的な宿泊施設に対しては、業界団体の認定による支援制度を構築する案などを挙げた。
検討会の名称は、「訪日外国人旅行者数のさらなる拡大に対応した宿泊施設のあり方に関する検討会」。旅館やホテル、旅行業などの業界団体、地方自治体、関係省庁の担当者のほか、有識者らが委員を務め、昨年9月から議論してきた。
国際観光ホテル整備法の登録制度をめぐっては、総務省が09年3月に政策評価の中で、外客の受け入れ促進への実効性を疑問視し、改善を勧告した経緯などがある。検討会の提言では、施行から約60年が経過し、「さまざまな制度的弊害が顕在化」「接遇が不十分な施設も散見」という指摘があると記述した。
しかし、検討会では、登録制度の枠組みや登録基準は基本的に維持するという結論を出した。外客受け入れを促進するには登録要件を緩和し、多種多様な旅館・ホテルを登録する方向性もあるが、「登録基準をいたずらに引き下げることは旅行者の信頼を損なう恐れもある」と懸念した。
ただ、登録基準については外客の多様なニーズを踏まえ、接遇などの「ソフト面を中心に登録基準を見直す」ことに言及し、登録制度の「より厳格な運用」を図ることを盛り込んだ。厳格な運用では、外客接遇主任者の未選任、施設変更の未届けなどの事例があることから、監査などの手法だけでなく、定期的な自主点検の励行や手続きの簡素化などを提案した。
登録施設に対する国の支援制度に関しては、現行法が努力義務に掲げている複数の外国語による案内標識やクレジットカード利用への対応のほか、外国語放送の視聴設備の整備などに向けた支援方策を具体化するとした。また、旅行者への宿泊施設の情報提供について、日本政府観光局(JNTO)を活用する仕組みを構築することを盛り込んだ。
登録基準を基本的に維持する一方で、外国人の受け入れに意欲的で接遇にも優れているが、施設や設備の点で登録基準に達しない小規模な旅館やゲストハウスなどを制度としていかに支援するかも重視した。
登録施設以外の宿に対しては、「ソフト面で一定水準を満たす施設を業界団体が認定、登録し、海外に情報発信するような仕組みを構築することも考えられる」と補完的な制度の構築を提案した。国の支援施策も、宿泊施設の特長や役割に応じて検討するとした。
19日の会合で、検討会委員でもある観光庁の武藤浩次長は「提言を今後の施策に生かしたい。国の支援施策の具体的な内容は、現時点では盛り込まないが、融資制度や税制、補助事業などを含めて予算の概算要求に向けて検討したい」と述べた。
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登録制度に関しては、政府が掲げる外客3千万人誘致という目標を考えても、法制度の見直しが課題とみられてきたが、検討会の提言は基本的枠組みを維持する内容で、抜本的な法改正などの方向性は示されなかった。「法改正や運用の改善が必要かどうかは、さらに検討していく」(観光庁観光産業課)。
登録旅館・ホテル数は2918軒(09年12月現在)で、約6万軒ある旅館・ホテルの約5%に過ぎない。また、登録旅館・ホテルには、過去にはさまざまな優遇措置があったが、現行では一部の市町村が適用している地方税の不均一課税など支援施策は限られている。目標年次を定めて外客の受け入れを拡大するには、宿泊施設の質、量の確保が課題だ。登録基準、支援施策のあり方が問われている。