都道府県が算出する観光入込客数や観光消費額は、調査手法、精度の違いからこれまで地域間の比較ができなかったが、観光庁が策定した全国共通基準による調査が2010年度から順次実施され、比較が可能になった。実人数の入込客数、消費額単価などが分かり、地域の強み、弱みが数値化できる。信頼性の高いデータに基づく施策の立案、事業の効果検証が観光分野の課題とされてきただけに、地方自治体や観光事業者の活用が期待されている。
共通基準を採用した観光入込客数の統計調査は四半期ごとの実施。今年度4〜6月分から39都道府県が導入、10〜12月分から佐賀県が導入した。11年1〜3月分では秋田、茨城、栃木、埼玉、長崎の5県が導入する。大阪府と福岡県の導入は未定だが、45都道府県で比較が可能になる。
これまで都道府県が算出してきた観光入込客数には、延べ人数と実人数の違い、調査地点数の違いなどがあった。観光消費額の推計手法も異なり、精度にもばらつきがあった。都道府県ごとに伸び率などの把握はできても、他県との比較は難しかった。
共通基準の調査による調査では、観光地や観光施設、イベントの訪問者数を足し上げる延べ人数を基に、調査員が旅行者に聴き取りを行うパラメータ調査(サンプル調査)で周遊先、消費単価などを把握し、実人数、観光消費額を推計する。観光入込客数、観光消費額ともに、目的別(観光、ビジネス)、発地別(県内外、外国人)、形態別(宿泊、日帰り)に数値を出すことができる。
観光庁は共通基準による調査の結果を踏まえ、活用事例などを紹介し、新しい統計の有効性をPRしている。紹介事例の1つが、兵庫県、奈良県、和歌山県の観光消費額(4〜6月分)の比較=別表参照。例えば、兵庫県は県内宿泊客の単価の高さが際立ち、反対に奈良県は県外宿泊客の単価の高さが目立つ。一方で和歌山県は県外日帰り客の単価が高いことなどが分かる。直接比較が可能になり、各県の傾向が数値化できた。
観光庁観光経済担当参事官室では、「地域の現状を把握した上で、強みをより伸ばすか、弱みを補っていくかなど、施策の企画立案に役立てることができ、その施策の効果も検証できる。行政だけでなく、旅館・ホテルや観光施設、旅行会社の誘客戦略にも活用できる」と話している。
また、全国共通の基準であることから、都道府県という範囲だけでなく、県境をまたぐ観光圏や広域エリアごとに入込客数や観光消費額を算出することもできる。地域間の連動した施策の推進に役立ちそうだ。
外客増加に活用 地方の誘致支援
観光庁は、訪日外国人旅行者の誘致にも共通基準に基づくデータを生かす。地域ごとの外国人入込客数が把握でき、検証可能なデータがそろうことから、都道府県に入込客数の具体的な数値目標を掲げてもらい、観光庁が海外プロモーションなどを後押しする。
「訪日外国人都道府県入込増促進プログラム」(仮称)として実施する予定。意欲的な目標を掲げる都道府県を対象に、ビジット・ジャパン事業の海外宣伝や地方連携事業などで支援を強化していく方針。
調査費のねん出 自治体には課題
大阪、福岡は導入未定
観光入込客統計は、観光庁が有識者委員会で議論して共通基準を策定したが、調査の実施主体は都道府県。四半期ごとに実施するパラメータ調査などにかかる予算をねん出する必要がある。
大阪府と福岡県は、全国基準の導入の見込みが立っていない。調査費の財源確保が課題だという。共通基準に必要なパラメータ調査には費用が伴う。四半期ごとに観光地点10カ所以上で、回答者と同行者を含めて約3千点のサンプルを収集する必要があるためだ。
共通基準を導入した都道府県でも、財源に国の緊急雇用創出基金事業を充てているところがある。「共通基準を導入するメリットは確かに大きいが、一般財源の確保となると簡単ではない。国にも予算措置を考えてもらいたい」と話す自治体の観光部門もある。
統計整備を担当する観光庁の矢ケ崎紀子・観光経済担当参事官は「財政事情は厳しいと思うが、信頼性の高い統計は観光振興に欠かせない基盤。観光施策の効果、観光がもたらす地域経済への効果を住民や議会にきちんと説明できるデータとして、有効に活用してもらいたい」と話している。
※観光入込客数の集計結果は観光庁ホームページ(http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/irikomi.html)まで。