「大型バスの姿もあまり見かけず、客足が戻っている感覚はない」猪苗代観光協会(猪苗代町)職員の言葉に力強さはない。日本で4番目の広さを誇る猪苗代湖は今の時期、ボート漕ぎやキャンプなどで訪れた人々で賑わうが、今年は様相が異なるようだ。
激減した観光客を呼び戻そうと、同協会は1日から、1万円で1万2千円分使える「猪苗代こらんしょチケット」(愛称・いなチケ)を限定販売した。町内の宿泊施設やレストラン、娯楽施設など75カ所以上で利用できる。価格は1セット1万円(1千円券7枚、500円券10枚)で、5千セット販売。1人5セットまで購入できる。
いなチケキャラバン隊が県外や首都圏で販売するほか、JR東京駅に近い県八重洲観光交流館でも購入できる。販売期間は来年3月11日まで。売り切れ次第終了となる。
いなチケの販売は今年で3回目となるが、例年より販売開始時期を早め、グリーンシーズンから利用できるようにした。また、発行枚数も2千セットほど増やした。同協会は「首都圏や県外からの観光客が購入し、ここで使ってもらうことが何よりの復興支援になる。観光客を呼び戻す起爆剤になれば」と期待する。
13日、猪苗代の夜空に約2千発の花火が打ち上がった。この「いなわしろ花火大会」、実は4年ぶりの開催となる。震災で苦しむ子供たちに希望の花火を見せるため「福島こども花火」(同協会主催)として復活。花火の購入代金は支援金・協賛金として広く募り、目標の2千発にこぎつけた。復興への祈りが込められた千羽鶴も送られてきたという。
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東日本大震災の影響で休館しているスパリゾートハワイアンズ(いわき市)が10月1日から施設の一部をオープンし、営業を再開する。県を代表するレジャー施設の再開は復興への足がかりとなりそうだ。
運営会社、常磐興産の斎藤一彦社長が10日会見し、明らかにした。
再開するのは「スプリングパーク」「スパガーデンパレオ」「江戸情話与市」などの温浴施設と「ホテルハワイアンズ東館」「ウイルポート」の宿泊施設。ポリネシアンショーはスプリングパークの「プラザ」に会場を移して公演、「お客さまとのふれあいときずなをテーマにする」という。
部分オープンの日帰り入場料金は大人(中学生以上)1500円、子供(小学生以上)800円、幼児(3歳以上)500円で、通常の半額。
プールやビーチシアターを含む「ウオーターパーク」と新ホテル「モノリス・タワー」の営業は来年1月で、これがグランドオープンとなる。
いわき市のもう1つの代表的なレジャー施設が水族館のアクアマリンふくしま。津波で壊滅的な被害を受け、約20万匹の魚たちを失ったが、職員らの懸命な努力もあり、7月15日、営業を再開した。
海に面した浜通りはとりわけ震災の被害も大きかったが、そこを拠点とする2大観光スポットが再開した意義は大きく、客足の減少に悩む観光業界にとって明るいニュースとなった。
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東日本大震災で岩手、宮城両県とも大きな被害を受けたが、福島県は東京電力福島第1原子力発電所の事故が重くのしかかる。「2県とは事情が違う」(観光関係者)という声は福島ならではのものだ。目に見えない放射能の恐怖が観光客の足を遠のかせる。
「県にはたくさんの観光魅力があるが、(被曝を警戒してか)なかなか足を運んでくれない」と県観光交流課の岸孝志副課長はいう。「一刻も早く原発が収束し、国が安全宣言を出してほしい。そうでないと(消費者は)福島に行こうという積極的な気持ちにはなれないだろう」。
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暗い話題ばかりではない、明るい兆しが見え始めた。マイカーによる旅行者の増加だ。県が7月中旬から実施している有料道路の無料化が奏功。対象は磐梯吾妻スカイラインなど3道路で、前年に比べ利用者が1.5倍に増えた道路もある。
県は先ごろ、温泉や名所旧跡、果樹園などの観光地・観光施設について、警戒区域を除く県内全域の約230カ所で行っていた大気中の放射線量調査結果を公表。その結果、基準値を超えた地点はなかった。
「警戒する気持ちも分からないではないが、あまり神経質になるのもどうか。県や観光協会のホームページなどを見て、冷静な対応、行動をしてほしい」と観光関係者は望むばかりだ。
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福島市観光物産協会の渡辺和裕会長(ホテル山水荘社長)は情報発信のあり方を考えるべきだと指摘する。「例えば、外国に向け『日本に来て下さい』ばかりでは効果が薄い。外国人留学生も徐々に戻りつつあり、彼らが行っている除染活動の映像や、子供が祭りで御輿みこしを担いでいる姿などを流した方がよほど説得がある」と。