東日本大震災の発生と東京電力福島第1原子力発電所事故により大きな打撃を受けた東北の観光だが、震災直後から「動ける地域から観光を盛り上げていこう」との機運が高まった。直接的被害がほとんどないにもかかわらず観光客の落ち込みが大きかった秋田、山形の両県、被害が太平洋沿岸の一部地域にとどまった青森県は今夏、夏の需要喚起と秋以降の誘客拡大に向けた取り組みを次々と展開。自県の観光を元気にすることで東北全体の観光を盛り上げようと力を入れる。
秋田県の佐竹敬久知事と山形県の吉村美栄子知事は18日、台湾・台北市内で現地の行政関係者や航空会社、旅行業関係者らと意見交換を行った。誘客と両県産品の輸出拡大を狙ったプロモーションの一環。6月13日に台湾外交部が福島県を除く東北5県について、退避勧告地域への指定を解除したことに合わせ、訪台した。
意見交換会に出席した40社60人の現地観光関係者を前に、佐竹、吉村両知事と両県の観光関係者らは、両県を含む東北地方の安全性と、温泉や樹氷などの観光魅力をアピールしたほか、東日本大震災以降は運航が止まっているチャーター便の再開による交流拡大を訴えた。また両県にまたがった観光ルートを使った旅行商品などの実現も呼びかけた。
プロモーションを受け、山形県に対しては中華航空から来年1月中旬以降6往復のチャーター便の運航計画が示された。「復興航空からも冬季にチャーター便を計画してもよいとの話があった」と県観光交流課。また秋田県については、復興航空が9月8、12日に各1往復のチャーター便を秋田空港に飛ばすことが決まっており、東北への訪日旅行の復活に向けた“のろし”が上がり始めた。
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4月23日から7月22日まで、青森デスティネーションキャンペーン(DC)を開催した青森県。東日本大震災の発生と東北新幹線の運休などで一時は実施も危ぶまれたが、一部内容を変更しつつも開催にこぎつけ、「期間中の入込数は、前年を若干上回る人数となった」(同県観光連盟)。
東北新幹線復旧後にJR東日本が発売した「大人の休日倶楽部パス」「JR東日本パス」の効果や、DCに絡めたイベントやプロモーションの実施により7月に入ってから客足が徐々に戻ってきたという。同県観光連盟では、「DCに向けた全県挙げた取り組みが、震災以降の落ち込みを下支えした」と話す。同県では7月から、県内流動を促そうと県民に5千円の宿泊補助券を贈るモニターキャンペーンを始めるなど、DC後の観光需要の喚起に向けたさまざまな施策を用意する。
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首都圏からの誘客が期待できない中での県民向けのキャンペーンは、山形、秋田の両県も実施。このうち秋田県では、県民を対象に1人5千円を助成する宿泊補助券を贈るプロジェクトを実施。積極的なプロモーションの成果もあり、1万口の募集枠に3万口の応募が集まった。「10〜12月の大型観光キャンペーンを控え、落ち込んだ観光需要を喚起する役目を果たせたのではないか」と同県観光課。
また山形県では、被災者に身体や心を休めてもらうだけでなく、2次避難先を選ぶ参考にしてもらおうと、温泉と観光スポット、公営施設をめぐるツアーを各市町村と連携して実施するなどの取り組みも実施。このうち天童市をめぐるツアーには、7月11日催行分までで宮城県民を中心に延べ1100人が参加。オプションのサクランボ狩りなどを楽しむ参加者も見られたという。
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東日本大震災から半年近くが経ち東北への個人旅行が回復基調にあると言われる一方で、首都圏などからの団体客の動きの鈍さを懸念する声もある。夏の「かき入れ時」を過ぎ、これから迎える秋の紅葉シーズンの需要喚起にどう取り組むか、東北観光の復興をけん引しようという青森、秋田、山形各県の取り組みを注視したい。