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観光行政 ■第2624号《2011年9月10日(土)発行》    

観光業の風評被害、損害賠償の動き始まるも分かりにくさに戸惑い
 東京電力は8月30日、福島第1原子力発電所の事故による損害賠償の具体的な基準や金額の計算方法など、概要を発表した。観光業の風評被害については、福島、栃木、茨城、群馬4県の旅館・ホテルなどに対し、観光客の予約控えとキャンセルによる減収分を補償。外客については全国を対象に5月末までのキャンセルによる減収を補償する。東電や文部科学省による説明会も開かれているが、観光関係者は「よく分からない」「もっと具体的な話をしてほしい」と戸惑い気味だ。業界の反応を探った。

宿泊施設
 東京都ホテル旅館生活衛生同業組合は1日、緊急正副理事会を開き、原発事故に伴う観光業の風評被害、外国人客のキャンセルに関する損害賠償について話し合った。日本観光旅館連盟、国際観光旅館連盟など主要宿泊団体の事務局も参加。

 同理事会では、東電福島原子力補償相談室の橘田昌哉氏らが、賠償の範囲などを示した「原子力損害賠償紛争審査会」による中間指針の内容を説明した。

 出席者からは損害賠償の算定基準の中の解約率という文言について指摘があった。外客に関する損害について、中間指針は「通常の解約率を上回る解約が賠償の対象になる」としているが、「旅館・ホテルには解約率という概念そのものがない」「キャンセルの件数を記録していないところも多い」として、文言を変えるよう訴えた。

 都旅組は「現段階では何とも言えないが、個々の旅館の請求書をとりまとめて、東電に渡すことが考えられる」としている。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会も2日、原発損害賠償の打ち合わせ会を開き、フォーマット(賠償請求書)の中身について議論したが、結論は現時点で出ていない。「今後、9月中旬まで、東電と意見のやりとりを行う」としている。

 茨城県は8月31日、観光物産課が観光業者を対象に、補償請求に関する説明会を水戸市内で開いた。文科省の原子力損害賠償対策室や東電の補償相談室の担当者が出席し、約140人を前に補償請求の範囲や手順について説明。東電側は9月中旬をメドに始める補償請求書の送付にあわせ、業種別に説明会を行う考えを示した。

 県ホテル旅館生活衛生同業組合(村田實理事長)は補償請求について、組合で一括するかどうか今後話し合う予定だが、川崎洋副理事長によると、4月から呼びかけている被害額調査も会員約400軒中回答があったのは120軒程度で、被害状況の把握も十分でない状況。補償請求書が送付された段階で、各支部の理事ら40〜50人による会合を持ち、東電側から再度説明を受ける予定だ。

 同組合は6月17日、東電に対し風評被害に関する補償要望書を出した。8月25日には橋本昌知事や農水事業者団体の代表らと連名の「申入書」を来県した西澤俊夫東電社長に手渡し、原発事故の早期収束と損害賠償の速やかな実施を求めた。

 観光業での風評被害や外国人観光客の来県回避による損害については、イメージダウンによる今後の影響なども踏まえ、前広に賠償するよう求めている。

 群馬県でも8月19日、同様の説明会があった。県旅館ホテル生活衛生同業組合の市川捷次理事長は「県が損害賠償の対象となったことはひと安心」とするが、説明会などでのやりとりを通じ「東電は(観光業者が抱える)事態の深刻さを、果たして分かっているのかどうか…」と不信感を募らせる。

 同旅組は「東電側から近く詳細な算定基準を示すとの連絡があった。これを見た上で具体的な対応を決めたい」とし、改めて会員向けの説明会を開くよう要望する。

 東アジアからの観光客が多く訪れる大分県の別府温泉。震災後は韓国、台湾などの宿泊キャンセルが相次いだ。損害賠償の請求に関して、別府市旅館ホテル組合連合会は「全旅連での議論を踏まえ、全国と歩調を合わせて取り組むことになるだろう。会員施設には提出が想定される資料の準備を進めるよう話している」として、請求書の様式整備などを待って対応する考えだ。

旅行会社
 日本旅行業協会(JATA)は1日、原発損害賠償請求に関して、全会員を対象に調査依頼のメールを発信した。「まずはアンケートをとって、各社の損害状況を把握する。また、意見を聞き、各社が同じような形式の書類で賠償請求を行えるようにしたい」としている。

 さらに、会員向けの説明会を9月下旬に開催する方針だ。この場で賠償請求の対象や具体的な請求方法などが説明される予定。

経営問題専門家の見方
 山田ビジネスコンサルティングの青木康弘氏は(1)補償対象エリアが少ない(2)被災者などを受け入れた場合の売上高減少率の考え方が不明確(3)外国人観光客の予約控えについて補償対象外となっている──と指摘。「意図的に対象エリア、対象範囲を限定している印象を受け、安易に受け入れられるべきものではない」としている。

 青木氏は「解約や予約控えなどによる損害を被った場合の補償についてだが、被災者の受け入れや復興・報道関係者などを泊めていた場合に、売上高の減少率はどのように見るのか。一時的な売り上げにはなるが、将来的には売り上げ減につながってしまう。東電はどう補償してくれるのか」と疑問を投げかける。

 外客についても「6月以降の予約が入らない北海道や東京、京都の旅館・ホテルなどはどう補償してくれるのか不明。東電は福島周辺の施設のみに風評被害が発生していると前提を置いているが、地域に関係なく原発の風評被害は継続しているのが実情だ」と言う。



日観協、「1ウイークバカンス」キャンペーンを展開

 日本観光振興協会は全国規模の「1ウイークバカンス」キャンペーンを始めた。日本ツーリズム産業団体連合会が展開してきた休暇改革事業を受け継ぎ、最低1週間の連続休暇取得を奨励するとともに、対応する旅行商品の造成を推進、旅行需要の平準化と新規需要を喚起する。観光庁を中心とする国内旅行振興キャンペーン「がんばろう 日本」とも連携し、“長旅”に出かける機運を盛り上げる。

 キャンペーンは来年3月末まで実施する。「1年に1度は、長旅へ。」のキャッチフレーズと一休さんをモチーフにしたポスター、ロゴマーク=写真=を作った。

 ポスターは会員企業・団体の事業所や店舗などのほか、宿泊施設や旅行会社、運輸機関などで掲出し、消費者に周知。ロゴマークは旅行商品パンフレットに使用し、会員企業・団体のホームページにも掲載する。

 9月中旬にも新たにキャンペーン専用ウェブサイト(http://1wv.jp)を立ち上げ、秋冬の旅行シーズンに向けた旅行商品の紹介や「旅行川柳コンテスト」「プレゼントアンケート」などのキャンペーンイベントを実施する。

 川柳コンテストはサイト上で広く作品を募集。投票で上位となった作品応募者には旅行券や宿泊券のほか、協賛会員企業・団体のタイトルを付けた賞品を贈呈する。

 日観協によると、旅行会社や宿泊施設なども対応商品の造成を進めている。

 「中長期的な取り組みとして、『JTBのロングバカンス』のコンセプトのもと、グループ各社で長期滞在型の商品をマーケットに投入し、旅行需要の喚起を推進する」(JTB)、「1ウイークバカンスに対応したウェブ展開の専用商品造成を検討中」(JR東日本)、「JALとホテルのタイアップ企画として、北海道、東北方面の新規商品を造成。トマムコースでは最長14日間まで設定し、滞在中のアクティビティを選択、利用できるなど、長期滞在における過ごし方も提案する」(ジャルパック)などがある。



国交相に前田参院議員、副大臣・政務官も決定
前田 武志氏

 野田新内閣が2日発足し、国土交通相に参院予算委員長などを務めた前田武志氏(73)=民主党・参院比例=が就任した。5日には副大臣、政務官の人事も決定した。

 前田国交相は2日の就任会見で、観光立国の推進を含む国土交通分野の政策に加え、「震災からの復旧、復興、そして原発の事故の収束に向けての努力、これに尽きる」と述べ、東日本大震災からの復興に注力する姿勢を強調した。

 前田氏は、民主党の観光振興議員連盟の顧問を務めている。

 国土交通省の関係では、副大臣に奥田建氏(52)、松原仁氏(55)、大臣政務官に津川祥吾氏(39)、津島恭一氏(57)、室井邦彦氏(64)=いずれも民主党=が就いた。

 前田 武志氏(まえだ・たけし)奈良県出身。京都大大学院修了。建設省入りし、国土庁専門調査官、ベトナム日本大使館一等書記官(外務省出向)などを歴任。1986年、衆院議員に自民党から初当選。宮澤内閣で国土政務次官。民主党結成に参加。2004年に参院議員に当選。当選は衆院4回、参院2回。

 奥田 建氏(おくだ・けん)石川県出身。日本大理工学部卒。衆院、石川1区、当選4回。衆院法務委員長など。 

 松原 仁氏(まつばら・じん)東京都出身。早稲田大商学部卒。衆院、東京3区、当選4回。党副幹事長など。

 津川 祥吾氏(つがわ・しょうご)北海道出身。北海道大経済学部卒。衆院、静岡2区、当選3回。菅内閣で国土交通大臣政務官。

 津島 恭一氏(つしま・きょういち)青森県出身。武蔵大経済学部卒。衆院、青森4区・比例東北、当選3回。党国会対策副委員長など。

 室井 邦彦氏(むろい・くにひこ)追手門学院大文学部中退。元衆院議員。参院、比例代表、当選1回。党企業団体対策委員長代理など。

内閣官房副長官に 竹歳国交事務次官
 野田新内閣の内閣官房副長官に竹歳誠国土交通事務次官が就任。国土交通事務次官の代理は、小澤敬市大臣官房長が務める。



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