全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連、佐藤信幸会長)は17日、東京の全国旅館会館で「じゃらんnet」を運営するリクルートと「フェイスブック問題」の協議会を開いた。問題解決に向け、全旅連がリクルートに要望していた、じゃらんnetの宿泊予約システム利用約款の改訂について、リクルートがほぼ全面的に受け入れ、約款に新たな条項を加えることで合意した。リクルートが宿泊施設が作成したと誤認されやすい施設情報を他のウェブサイトなどに掲載する場合、掲載の2週間前をメドに施設に通知することや、施設の承諾を得た上での掲載を今後徹底する。
約款の解釈を巡り、宿泊施設側とリクルート側に齟齬(そご)が生じたことから、全旅連では今後、リクルートを含めた有力ネットエージェントと定期的に会合を持ち、ネットにかかわる諸問題の解決や発生防止を図りたいとしている。
リクルートは7月1日から、会員制交流サイト「フェイスブック」上に、同社と契約がある宿泊施設の「公式ページ」を施設の承諾を得ず、前日の6月30日に通知するのみで掲載。宿泊施設側から、フェイスブックに自館の公式ページを掲載できず、同サイトで営業活動ができなくなったなどと苦情が寄せられていた。
じゃらんnetの「宿泊施設等予約システム利用約款」では、第21条に宿泊施設の利用促進を目的に、リクルートが得た所在地や料金などの宿泊施設情報を、他社を含めた旅行関連ガイドブックや各種ウェブサイトによる情報提供サービスなどに利用できると明記されている。
全旅連では、フェイスブックへの宿泊施設情報の掲載について、施設に事前の相談がなく、前日に一方的に通告したのみの対応を問題視。またリクルートが掲載した「公式ページ」を宿泊施設の公式ページであると消費者が誤認し、宿泊予約をリクルートを介して行った場合、施設が本来支払う必要のない手数料を支払わねばならず、経済的負担が起こるとして、是正を求めていた。
全旅連では8月19日、旅館ホテル組合員で、掲載を承諾している施設以外の「公式ページ」を削除するようリクルート側に要求。また(1)他の情報媒体に施設情報を掲載する場合は、掲載前の遅くとも2週間前までには、当該宿泊施設に対して、掲載内容を通知する(2)当該施設情報の掲載に伴って、当該施設の営業活動に影響を及ぼす場合には、どのような影響があるのかを書面により分かりやすく説明する(3)当該施設情報の掲載に伴って、当該施設の営業活動に制限もしくは影響を及ぼす場合には、掲載前に書面による当該宿泊施設の承諾を得る(4)21条が、貴社が当該施設の営業主体を名乗り、情報を掲載することを許容するものではないこと──の4項目の要望事項を提出した。
リクルートは9月12日、全旅連の要望を受けて、問題解決の協議を行いたいと表明。同30日までに、掲載を承諾している宿泊施設以外の「公式ページ」を削除した。
問題解決の第1回協議会は10月19日に開催。全旅連がシステム利用約款第21条に、4項目の要望を踏まえた新たな条項を追記するよう要求。リクルートは同26日に要求の受け入れを表明して、全旅連の案を若干修正した条文を提案。全旅連が同31日の正副会長会議で了承した。
追記された条項「第4項」は「当社が第1項に規定する施設情報の利用許諾に基づき、ガイドブック等を作成する場合において、掲載施設による作成と誤認される可能性の高い方法でなされる場合には、掲載施設に対し掲載の2週間程度前をひとつの基準として、事前通知のうえ承諾を得るものとする」。
新条項は11月18日付で追記。来年1月1日付で適用される。
17日の第2回協議会には全旅連から佐藤会長、大木正治会長代行、宮村耕資総務委員長、工藤哲夫政策委員長、リクルートから冨塚優カスタマーアクションプラットフォームカンパニー長、金光竜二旅行ディビジョン長、宮本賢一郎旅行ディビジョン営業部長が出席。新条項の内容を確認した。
佐藤会長は「要望の4点について、誠意をもってこたえてもらった。ネット販売について、今後ますます発展するよう、互いに協議しながら進めていきたい」、冨塚カンパニー長は「佐藤会長からありがたい言葉をいただいた。皆さまとウイン・ウインの関係を作れるよう、また日本の観光業界が発展するよう、今後も皆さまと話し合っていきたい」と述べた。
全旅連は今後、リクルートと年4回程度、ネット全般にかかわる問題の解決や発生防止に向けて会合を持つ予定。総務委員会を中心に、青年部などにも幅広く声をかけて対応する。他の有力ネットエージェントとも定期的に会合の場を持ちたいとしている。
【解説】
リクルート社は17日、全旅連が同社に求めていた「宿泊施設等予約受付システム利用約款」の第21条の改訂に同意した。全旅連が顧問弁護士名で、会員の“公式フェイスブック(FB)ページ”の削除と同21条の改訂を求める「通知書」をリクルート社の柏木斉社長あてに内容証明郵便で送付したのは8月19日。3カ月間の粘り強い交渉の末、同意を勝ち取った。
同社は昨年10月に今年4月1日からシステム利用料(手数料)を値上げすると発表。国観連近畿支部、箱根温泉旅館協同組合、国観連九州支部、宿泊業主要5団体(国観連、日観連、全旅連、日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟)による再三の撤回要請を拒否して、東日本大震災直後に手数料値上げを強行した。これまで強気一辺倒だったリクルート社から全旅連が今回譲歩を引き出した意義は大きい。
リクルート社が譲歩した背景には、全旅連と国観連近畿支部による違法可能性の指摘がある。
全旅連は「通知書」の中で、じゃらんnetが勝手に作成、公開した全旅連組合員の“公式FBページ”について「不正競争防止法で禁じられている営業主体混同行為(同法第2条第1項1号)に該当し、全旅連組合員の営業権の侵害にあたる可能性がある」と抗議。
国観連近畿支部は10月12日に公正取引委員会に提出した「申告書」の中で「リクルートの行為は、優越的地位の濫用、取引妨害、拘束条件付取引に該当する可能性があるので、独占禁止法に基づき、排除措置命令を求める」としている。同申告書では、今回改訂が決まった同第21条の問題点に加えて、同第7条7号で「本システムを経由せずに在庫情報に係る予約をさせる行為またはそのおそれのある行為」を禁止し、同8号では「じゃらんnet以外の施設提供サービスに係る予約受付を可能とするサービスを宣伝する行為」を禁止している点についても独占禁止法に抵触する可能性があると指摘している。
リクルート社は相応の歴史を持つ大企業だが、観光業界においては、インターネット宿泊予約の分野で急成長した新興勢力に過ぎない。宿泊業界との共存共栄を本気で望むのであれば、分相応の自覚が必要だ。今回の第21条の改訂ですべての問題が解決したわけではない。