5月13日に発生した広島県福山市のホテル火災を受け、国土交通省と総務省消防庁は2日、全国の古い旅館・ホテルを対象にした緊急調査結果を発表した。それによると、調査施設の約半数が非常用照明装置の不備など建築基準法違反、約7割が自動火災報知設備の不備など消防法違反だった。高く見える違反率だが、「毎年のように対策事項が増え、迅速に対応できていないケースもある」「改善に時間がかかる細かい点も含んでのことではないか」と、調査結果に疑問の声をあげる旅館・ホテル経営者も少なくない。「設備導入への金融補助制度が必要だ」と指摘する声もある。
調査対象となったのは、1971年以前に新築された3階建て以上の旅館・ホテル。過去「適マーク」の交付を受けたことがある施設は除いている。
国交省の調査では、対象1840施設のうち、建築基準法違反が確認された施設が47%に当たる867件あった。
最も多い違反が避難経路の照明不備など非常用照明装置関係の410件。以下、耐火建築物関係395件、防火区画関係346件、排煙設備関係220件、直通階段関係160件、内装制限関係138件など。国土交通省住宅局建築指導課は、問題がある施設には指導を行い、悪質な場合は建物の使用禁止も検討するとしている。
一方、消防庁の調査では、対象施設797件のうち、69%に当たる549件で何らかの消防法違反があった。消防訓練に関する違反が違反率44%と最も多く、防火対象物点検結果報告に関する違反が37%とこれに続いた。スプリンクラー設備、屋内消火栓設備、自動火災報知設備のいずれかが床面積の半分以上を網羅していない重大な違反があるとする施設は47件で、全体の6%あった。
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これらの調査結果に対し、首を傾げる旅館・ホテル経営者も多い。
東日本のある旅館経営者は「宿では年間を通して消防の検査が定期的に行われている。設備点検年2回、避難訓練2回、防火対象物点検などで、数年前からは間に民間業者を入れての検査となり、より細かいところまで妥協しない検査状況だ。(違反の高い比率は)恐らく改善に少々時間がかかる細かい点まで含んでのことではないか」。
また「旅館・ホテルは法律が変わるたびにそれを受け入れ、消防設備に多額のお金をかけてきた。法律は机の上で文章を書き直せば変えられるが、その改正によって多額の設備資金を用意するには相当の努力が必要。施設導入への金融補助制度や消防用品のコストの適正化に行政は取り組んでもらいたい」と訴えている。
西日本の旅館経営者は「7割が消防法違反、半数が建築基準法違反というのは構造的に当然。特に消防法は、法律よりも現場の査察担当者の権限が大きく、じゅうたんに防炎シールが貼っていないなどの揚げ足取りに近い指摘もよくある。毎年のように指摘事項が増え、去年はOKだったものが今年はNGだったりする。施設側は安全を無視しているのではなく、現実的でない指摘に迅速に対応できていないケースが多々あるのが現実だ」。
別の東日本の旅館経営者は「難しい問題」と前置きし、「今、問題になっている多くの旅館は、70年前後に建てられたものが多く、その後も増築を重ねている。それぞれの時代の法律を順守して建てられているが、時代とともに法律も変わってくるため、古い建物ほど今の法律とかけ離れてくるのが現状と思われる。スプリンクラーひとつをとっても、もともと必要なかったものが強制的に施設全体に設置されなければならないようになり、物理的、金銭的に無理なところもかなり多くあると認識している。法の順守は必要だが、様々な金銭的補助がないと、今の旅館・ホテルの体力では『守りたくても守れない』のが現状ではないか」と訴えている。