改正労働安全衛生法、観光業界にチャンス |
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学会会員ら7氏によるシンポジウム |
日本観光研究学会はこのほど、埼玉県新座市の立教大学で「今求められる、こころを軽やかにする観光」をテーマにシンポジウムを開いた。この席で出席者は、昨年6月に改正された労働安全衛生法に言及。従業員50人以上の事業所に従業員の年1回のストレスチェックを義務付けるもので、出席者から「企業が観光を使い、従業員の心を軽くする取り組みが考えられる。観光業界にとって(改正法の施行は)チャンスだ」と、その可能性を訴えた。
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的に1972年に施行された。
今回の改正では、従業員(常時使用する労働者)50人以上の事業所に対し、そのストレスチェックを義務付ける。50人未満の事業所は当分の間努力義務とする。実施は今年12月1日から。
ストレスチェックとは、医師や保健師、一定の研修を受けた看護師などが、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査。職場の環境や現在の体調などの設問で該当する項目を選んでもらう。
法律では、事業所に年1回の検査を行わせ、検査結果を医師などから従業員に直接通知。高ストレスと判断された従業員から申し出があった場合、従業員に医師による面接指導を受けさせることを義務付ける。また面接指導の結果に基づき、従業員の就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を行うことも義務付ける。
学会のシンポジウムでは、立教大学現代心理学部の小口孝司教授、琉球大学大学院観光科学研究科の荒川雅志教授らが改正労働安全衛生法に言及。
小口氏は「顕在的な精神疾患者は300万人以上、そのうちうつ病は100万人以上で、実際はその数倍ともいわれる。そんな中で従業員のストレスチェックが企業の義務となった。企業が観光を使い、従業員の心を軽くする試みが考えられる。観光業界にとっては観光の有効性、エビデンス(証拠・根拠)を提示する必要がある」と述べた。
荒川氏はストレスチェック制度とともに、厚生労働省が進める糖尿病予備軍らを対象にした「宿泊型新保健指導(スマート・ライフ・ステイ)プログラム」に言及。沖縄県で行われている同プログラムのモデル事業を紹介した。またこれらの動きを踏まえ「従来型の観光では来訪者増は到底期待できない。ヘルスツーリズム、エコツーリズムなど、新しいタイプの『ニューツーリズム』の開拓が必要だ」と観光関係者らに訴えた。
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国内旅行消費額、14年は18兆5500億円、過去5年で最低に |
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観光庁は6月30日、2014年の日本人の国内旅行の延べ旅行者数、旅行消費額の確定値を発表した。宿泊、日帰りを合わせた延べ旅行者数が約6億人、旅行消費額が約18兆5千億円で、ともに前年の実績を下回り、10年以降の過去5年間で最低だった。消費税率の引き上げに所得の上昇が追い付かなかったことなどが要因と見られている。
旅行・観光消費動向調査に基づく結果。6月9日に公表した15年度版「観光白書」に記載された数値は速報値だったが、今回発表したのは確定値。
国内旅行の延べ旅行者数は前年比5.7%減の5億9522万人。内訳は宿泊旅行が7.2%減の2億9734万人、日帰り旅行が4.1%減の2億9788万人。
国内旅行の旅行消費額は同8.1%減の18兆5498億円。内訳は宿泊旅行が9.1%減の14兆124億円、日帰り旅行が5.0%減の4兆5373億円だった。
観光白書では、14年の国内旅行の減少要因について、「消費税率引き上げや輸入物価の上昇等による物価上昇に、所得の上昇が追い付いていないことに加え、駆け込み需要の反動減や天候不順等が影響したため」と分析している。
出張や帰省などを除いて観光・レクリエーションに旅行目的を限ると、延べ旅行者数は同8.9%減の3億4865万人で、内訳は宿泊旅行が9.3%減の1億6003万人、日帰り旅行が8.6%減の1億8863万人。旅行消費額は同9.3%減の11兆4517億円で、内訳は宿泊旅行が9.8%減の8兆5339億円、日帰り旅行が7.8%減の2兆9719億円だった。
また、宿泊旅行統計調査の14年の確定値も発表された。年間の延べ宿泊者数は前年比1.6%増の4億7350万人泊だった。
内訳は、日本人の延べ宿泊者数が0.9%減の4億2868万人泊、外国人の延べ宿泊者数が33.8%増の4482万人泊だった。
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骨太方針、宿泊業などサービス業の生産性向上を重要課題に |
政府は6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太の方針)と新たな成長戦略「日本再興戦略・改訂2015」を閣議決定した。骨太の方針では、宿泊業を含むサービス業の生産性向上を重要課題に挙げた。再興戦略では、外国人旅行者2千万人時代への受け入れ環境の整備、観光地域づくりとマーケティングを担う観光地経営体(日本版DMO)の設立などを重要施策に掲げた。
骨太の方針では、「労働力不足の克服が今後のアベノミクスの最大課題の一つ」として、「サービス生産性革命」を進めると明記。宿泊業など5分野の生産性向上に向け、製造業の「カイゼン活動」の応用や、IT、ビッグデータ、設備の活用などの取り組みを推進。「若者など働き手にとって魅力ある産業」にする。
再興戦略では、「地域経済のけん引役としての観光産業の再構築」として、インバウンドの受け入れ環境整備、日本版DMOの設立に注力することを掲げた。
受け入れ環境整備では、2千万人時代に備え、「地域の観光インフラの供給制約が観光産業の成長の足かせにならないよう、空港容量や宿泊施設をはじめとする受け入れ環境整備に向けた取り組みを加速化する」。
具体的には、地方ブロック別連絡会を活用し、空港、港湾のCIQ(出入国管理など)体制、空港の容量、交通機関や宿泊施設などの供給について、課題や対応策をまとめる。
日本版DMOの設立では、「観光地の強みとなりうる地域資源は地域によって異なり、単純に当てはまる成功の方程式などは存在しない。(中略)観光資源の磨き上げに強い覚悟と決意をもって取り組む必要がある」と指摘した。
日本版DMOの設立に向けては、「政策資源を集中投入する」と明記。今年度中にモデル地域を1〜2カ所程度選定し、支援することを盛り込んだ。
また、観光分野での外国人の活用では、(1)ホテル・旅館等の業務の中でも、専門的な知識を要するフロントでの接客、案内などの業務に従事していることなど一定の要件を満たす場合には、現行制度上、外国人の在留が認められることを明確化し、今年度中にホームページなどを通じた周知を行う(2)外国人スキーインストラクターについて在留資格の要件の検討を進め、今年度中に結論を得る—などを明記した。 |
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