立教大学観光ADRセンター主催の公開シンポジウム「インバウンド新時代 課題と展望」が8月25日、東京の同大学池袋キャンパスで開かれた。インバウンドの急増とともにクローズアップされる民泊とランドオペレーターの二つの問題について、同大学の研究者らが言及。民泊については「旅館・ホテルの法規制との整合性を考える必要がある」、ランドオペレーターについては「旅行業登録の対象外としていることに疑問を感じる」とそれぞれ述べた。
民泊問題について講演した立教大学法学部特任准教授の薬師丸正二郎氏は、「大都市部での宿泊需給の逼迫(ひっぱく)状況への対応」「空き家の有効活用」「GDP600兆円目標達成」「規制緩和」など、民泊が推進されている背景を解説。
民家の宿泊サービス提供を一定の条件下で認める「民泊新法」の法案提出が次期臨時国会で見込まれる現在の状況を説明した。
薬師丸氏は、民泊推進の要因の一つとされる宿泊需給の逼迫について、「本当に客室が足りないのか」と疑問を呈した。観光庁が公表する宿泊施設タイプ別客室稼働率で、東京都のシティホテルとビジネスホテルは昨年から今年にかけてほとんどの月で80%を超えているものの、旅館は50〜60%台にとどまっている。
京都府、大阪府も同様に、旅館はそれぞれ30〜40%台、40〜50%台と、ホテルに比べて低い水準だ。
薬師丸氏は「大都市にも使える施設はまだたくさんある。(民泊の増加は)既存の施設に悪影響を及ぼしかねない」と指摘。
薬師丸氏は、厚生労働省が公表する旅館数の推移にも言及。2007年の5万2295軒から2014年は4万1899軒と激減している状況を示し、「(民泊により)既存の宿泊施設がさらに激しく減るだろう」と危惧した。
今後の課題として薬師丸氏は「利害関係者相互の利益調整を図ることが不可欠。住宅提供者、宿泊者、仲介業者、既存業者(旅館・ホテル)、近隣住民等、指摘されているさまざまな問題点について、誰にリスクを負担させるべきか、整理する必要がある」「既存の宿泊業者の法規制との整合性を考える必要がある」などと強調した。ただ、旅館・ホテルに関しては「(旅館業法、建築基準法、消防法などの)規制自体がそもそも必要なのか。訴えるチャンスでもある」とも指摘した。
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ランドオペレーター問題は弁護士で立教大学兼任講師の小池修司氏が講演した。
小池氏は旅行業に該当せず、登録義務もないランドオペレーターについて、「実態が把握されていない」と指摘。
無登録ランドオペレーターの問題点として「違法な白バスや無資格ガイドの利用、免税店での買い物強要で観光客からの苦情が増加。顧客満足度の低下を招く事態になっている」「無登録オペレーターが手配した訪日観光客の場合、国内における所在把握、大地震やテロが発生した際の情報伝達が困難で、訪日観光客に日本滞在中の安全・安心をアピールできない」などを挙げた。
日本旅行業協会(JATA)がツアーオペレーターの品質認証制度を導入し、品質向上の取り組みを進めているが、未認証の事業者も業務を行えるため、「悪質業者の排除には限界がある」とした。
小池氏は「ランドオペレーターを旅行業登録の対象外としていることがそもそも疑問だ」と指摘。「観光立国を標榜(ひょうぼう)するわが国としては、オペレーターの品質を保つ法整備が求められる」とした。政府が今年3月策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」でランドオペレーターの登録制度に言及していることには期待感を示した。
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シンポでは「インバウンド新時代〜問題提議〜」と題して立教大学観光学部教授の橋本俊哉氏、「観光立国への課題」と題して立教大学観光学部教授・観光研究所長の東徹氏が講演。東氏のゼミ学生が「訪日中国人観光客の動向」をレポートした。