──7月10日付で総合観光政策審議官に就任されたが、観光部企画課長時代から約10年ぶりに観光部門に戻ってきた感想は。 「本当に変わった。10年前は、正直に言って行政として何をやるべきか、もどかしい部分があった。今はそれがクリアだ。観光立国推進基本法が成立し、基本計画が閣議決定され、政府が目標を定めて動き出した。観光への注目度も高まっている。地域活性化への“処方せん”として期待が大きい。もう1つはインバウンド。地域、産業がその重要性を認識しビジネスを広げるにはある程度のボリュームが必要だが、1千万人が射程に入ってきた」 ──日本郵政公社では民間のビジネスに携わった経験もあるが、観光行政を進める上での指針は。 「郵政公社では、国内の宅配便や国際物流事業、新規の事業開発などに携わり、企業間の提携や買収にもかかわったが、常に考えていたのは、どうしたらお客さまに評価されるのかということ。これからもそうだ。どの産業でも顧客満足度を高めれば、ビジネスは栄え、その産業は発展する。観光産業は時間消費にかかわる産業。その市場でレジャーや飲食などいろいろな産業が競い合っている。どの産業がコストパフォーマンスに優れ、満足度を高めるかで、優勝劣敗が決まる。それを抜きにして、産業が伸びるとか伸びないとか、そんな議論は意味がない。産業全体として、いかにお客さまの視点に立ち、満足度を高めることができるか。観光行政を進める上でも、プライオリティ(優先順位)はお客さまにあるという考え方が基本だ」 ──就任会見では、最大の使命の1つに「基本計画の実現」を挙げた。 「5カ年計画ではあるが、遅くとも3年目には打つ手はすべて打ったという状況にして、最終年年度で成果を刈り取るという形にしたい。そのためにスピード、効率、成果を重視していく。実施計画を策定し、毎年度の目標を定め、進捗状況を、関係省庁を含めて常に検証できるようにしたい」 ──基本計画には国内旅行を年間1人4泊にする目標がある。国内旅行の低迷をどう認識しているか。 「観光は『光』を『観』せるというが、自分の地域をかえりみて、何をみせるのか、もう一度考えてみてもいいと思う。ヨーロッパに6年いたが、あれだけ歴史文化、経済で結びついている国々にもかかわらず、地域ごとの個性が豊か。それが旅の楽しみでもあった。ところが、日本は地域らしさを追い求める姿勢に欠けるものがあったのではないか。どこに行っても同じような光景では魅力がない。旅館も同じだろうと思う。雰囲気もいい、サービスも快適、食事もおいしい、でも、その土地らしいものが何か全然分からないのではつまらない。成功モデルに学ぶことは重要だが、その土地の人、風物に触れることが旅の本質、そこをプロデュースすることが重要なのではないか。冬柴大臣は、自らの地域を愛し、愛されうるものにしていく『愛郷心』が重要だとおっしゃったが、その愛郷心が発揮されるような、個性や独自性のある地域づくり、宿づくり、旅行商品づくりが国内旅行を活性化させるカギだと感じている」 ──「観光のプレイヤーは民間」というフレーズをよく使われるが、その意味するところは。 「観光は今世紀のリーディング産業になるポテンシャルを持っている。そのポテンシャルを十分に発揮させられないとしたら、それは国の失策だ。制度、行政サービスのあり方を考えないといけない。ただ、『護送船団方式』の入る余地はない。プレイヤーは民間であるし、民間が自己責任で仕事をしていくというのは大原則。お客さまに支持されている観光地を見渡しても、それを誰が築き上げたたのかと言えば、地域の方々、事業者の方々、プレイヤー自身だ。民間、行政の役割を明確にし、それぞれが自らを律しないと、産業がおかしくなるし、お客さま、国民が不幸になる」 ──ご自身の最大の使命として、もう1つ挙げたのが「観光庁構想の実現」。観光業界の機運は高まっている。 「観光立国推進基本法の制定などを考えると、このタイミングだというのは絶対にあると思うが、政府全体として観光行政の推進にどんな組織が必要かがまず問われる。組織づくりが目的なのではなく、『庁』という器を使って成果を挙げることが目的だ。来年度の概算要求に盛り込むべきか、体制のあり方をしっかりと議論し、今月末までに結論を出す」 【プロフィール】 ほんぽ・よしあき 74年東京工業大学大学院理工学研究科修了、運輸省入省。97年7月から2年間は、運輸政策局観光部企画課長を務めた。大臣官房審議官、日本郵政公社理事などを経て現職。新潟県出身。58歳。趣味は読書、囲碁も打つ。