──文部科学省から、国土交通省の観光担当審議官に先月6日付で就任されたが、観光部門の印象は。 「観光は今とても注目されている分野で、観光部門の職員も前向きで勢いがあるように感じる。国土交通省と文部科学省という違いはあるが、文化庁やスポーツ・青少年の分野で交流にかかわる仕事をしてきた経験もあり、違和感はない。観光も、教育も、心の豊かさを育むもの。そのためにどのような環境を整備するかという面では、これまでと基本的な姿勢に変わりはない」 ──文科省で携わった交流事業などの観光とのかかわりは。 「文化庁の仕事では、05年の日韓国交正常化40周年を記念した『日韓友情年』で、日本映画をソウルで上映する文化事業に携わった。前職の大臣官房審議官をはじめスポーツ・青少年の担当部門では、国際スポーツ大会の開催や選手団の派遣、ボーイスカウトといった青少年関係団体の国際交流などを支援してきた。オリンピック招致に関する事業にもかかわった」 ──観光担当の審議官として、これまでのキャリアをどう生かし、何を使命としていくのか。 「官民を挙げてビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)が展開されているが、単に日本に来てもらえればいいというのではなく、日本の魅力を理解してもらい、人的な交流を拡大することが大切だ。もっと日本の魅力を発信し、相互交流を拡大させていきたい。そうした面でスポーツ、青少年の交流、文化事業に携わった経験を生かせるはずだ」 「観光は幅広い分野に関連する産業だ。観光行政も関係省庁との連携が重要になってくる。日本の魅力を高め、発信していくという視点を軸にして、関係省庁の連携がスムーズにいくよう、積極的に働きかけていきたい」 ──関係省庁の連携による国際会議などの誘致拡大も課題だ。 「国際会議は、文化、スポーツのイベントなどを含めて、日本の魅力を世界に知ってもらう絶好の機会。もっと生かすべきだ。16年のオリンピック招致に東京都が立候補しているが、来年の北京オリンピックと併せて成功させることができたら素晴らしい。観光だけでなく、アジアが持っている文化や思想、哲学を世界に発信するチャンスだ。欧米的なものの考え方だけでは上手くいかない部分も世界には多々ある。これからはアジア的なものの考え方が再評価され、世界に貢献する場面が増えてくると思う。世界に貢献できるものを持っているのかという視点は、今後の国際社会を生きていく上で重要だ。それが日本の観光の魅力を高めることにもつながっていく」 ──発信すべき日本の魅力、世界に貢献できる日本の文化とは何か。 「自分の国、または自分の地域が持っている魅力、価値に気づくというのは意外に難しい。だから外国人と交流することに大きな意味がある。交流することで見えてくるものはたくさんあるはず。例えば柔道だ。ヨーロッパでは人気が高く、特にフランスの愛好者人口は日本の2倍。勝ち負けだけではなく、礼儀を重んじ、相手を敬うという柔道の精神を日本人以上に外国人が評価している。また、地球環境への意識が高まる中で『もったいない』という日本の価値観も世界から注目されている。これも日本人が経済優先の社会の中で忘れかけていたのを外国人が着目したものだ。日本人は日本のことをもっと知るべきだ。観光資源についても同じように、日本人が、または地域の人たちが気づいていない魅力がたくさんあるはずだ」 ──自らの国、地域を知ることが、観光振興につながっていくということか。 「VJCは、日本人が日本をもう一度見つめ直すよい機会だ。国内観光でも地域を見つめ直す重要性は同じだろう。交流の中から日本の魅力、自分の住んでいる地域の魅力を再発見し、それを高めていくことは、観光立国の実現につながる重要なテーマの1つ。そのための環境整備に努力したいと考えている」