──社長就任の抱負を。 「分社化を何としても成功させなければいけない。これが最大のテーマだ。先日の社内議論でも課題がたくさん挙がっていた。来年から始まる中期計画はJTBの新体制下で作る最初の計画なので、この3年間で構造改革の仕上げをしたい。私に課せられた大きな仕事は、2012年に迎える創業100周年へのロードマップをどう描くかだ」 ──今後このままで旅行業は通用するだろうか。 「人から預かったものをそのまま販売し手数料を収受する従来型の旅行商売の存続は難しい。“旅行代理業”なら、じゃらんnetなどを含めて、もっとシステム化された企業が効率経営をし、販売を拡大しつつある。今旅行業とは何なのかが問われている。基本的に旅行会社は素材を仕入れて、商品化し、リスクを負って企画旅行で商売すべきだ」 ──当面、交流文化産業を推進するのか。 「交流文化産業はもう一回原点に返って『旅の力』を根幹に再定義した。旅の中には、健康や文化、経済、教育など、たくさんの力がある。その旅の力によって、社会の中での課題を解決する新しい産業をどう作り上げていくか。世間一般にはメッセージとして交流文化産業という言葉を使っているが、これから社会的有用性が築かれ、『今のJTBの仕事はそういう仕事なのか』と人々に理解されるようになればうれしい」 ──JTBの強みと弱みをどうとらえている。 「強みは『ブランド力』や『歴史』。それが逆に弱みでもある。ブランドは、こういう世の中では何かあるとすぐ消えてしまう。ブランドにぶらさがっている時は弱い。社員から時々『ブランド力のあるJTBに入れてうれしい』といった話を聞くが、そういう社員が多くなると弱くなる。JTBのブランドと歴史は先輩たちが創ってきたものだ。分社化して『JTB』と名の付く会社が176社もできたが、そのブランドを使って次の自分たちの時代につなげていく気持ちがあれば、この会社は強い」 ──インバウンド客はさらに増える。旅館もその対応が経営のカギになる。 「20年後ぐらいには国民が1千万人以上減るのは分かっている。そうなったら間違いなくインバウンド、特にアジアインバウンドを取り込まなければならない。要件の1つは、日本の伝統文化を守ること。日本だからこそあるものを作りあげていくことが大切だ。その答えはヨーロッパの国々にある。例えば、フランスの田舎はみんな伝統文化を守っていて、観光の魅力となっている。多くの外国人観光客が訪ねている。そういうところを旅館の経営者は見に行った方がいい。目先の事にとらわれ情緒を失うと文化も壊れてしまい、魅力も失ってしまう。海外に学ぶべき点は多い。JTBグループとして協力できる分野は徹底的に協力していきたい」 ──旅館・ホテルとの付き合いが長い田川社長は、旅館から「情に厚い」と言われているが。 「情に厚いかと問われたら、自分でも厚いと思う。それはなぜかというと、旅館の仕組みや、契約から仕入れ、商品造成までの仕掛けが分かっているから。そういう歴史を30年ぐらい積み重ねてきた」 ──その田川社長の眼で旅館・ホテルを見ると。 「激励は2つあって、1つは地域のために頑張ってほしい。例えば、JTBとJTB旅ホ連では着地型旅行商品づくり『旅百話』を進めているが、この会議になかなか出てこない会員もいる。地域活性のために行政から支援を引き出すのは大変だが、JTB旅ホ連を利用すれば多様な挑戦が速やかに実行可能だ。地域の活性化に一番関心の高い小田さんが会長の時に、会員の皆さんが旅ホ連を利用してやろうという気をまず起こしてほしい」 「もう1つは、売り物である自分の客室を大切にしてほしい。高く売れるもの安く売れるものなど客室のバリエーションによってどのチャネルで売るのかを考え、あの部屋はこう売る、この部屋はこう売る、食事はこうするなどアピールしてほしい。JTB側もそういう交渉例があまりないので、準備をしていく。これからは企画旅行においてこういうことが重要になっていくだろう。内部で徹底的に議論し、提案してほしい。提供した客室は好きなように売ってくれ、ではなく、JTBを使ってどう売るかを真剣に考えてほしい。契約とは本来そうあるべきだ」