──民間からの起用は初めてだ。就任の抱負をうかがいたい。 「倉庫会社で物流の仕事に50年間携わってきたが、観光連盟の会長に就任するとは予想もしていなかった。従来は知事や副知事が就任していた。私は物流業のほか、商工会議所の副会頭や社会福祉協議会の会長にも就いており、こうしたさまざまな分野での経験を考慮して選ばれたのだろう」 「高速道路の整備などが進み、より広域な旅行が可能になっている。1つの県や地域にこだわらず、近隣県も合わせて1つの観光地ととらえ魅力を発信し、岐阜県を売り出していく姿勢が必要だ」 ──これまでの経験をどのように観光の面で生かしていくのか。 「物流は輸出入を通じて海外と密接に携わっているため、外国人と接する機会も多く、岐阜県の観光に対する率直な意見を聞くことができる。物流を通じて得た海外の生の情報を県への誘客に生かしていければと思う」 ──岐阜県の観光魅力をどのようにとらえているか。 「岐阜県には海も空港もないが、海抜0メートルから3千メートルの高低差が実に豊かな自然を創り出し、その環境に適したさまざまな生活や文化を生み出している。雪深い白川郷には積雪に強い合掌造りがあり、豊かな水に恵まれた長良川では鵜飼いが1千300年以上営まれている。その他、中山道の宿場町や下呂温泉、郡上おどりで有名な郡上八幡など、実に観光資源が豊富だ。一度訪れておしまいというのではなく、何度訪れても違った旅を体験できる」 「県は昨年、ぎふデスティネーションキャンペーンに合わせて、みんなでつくろう観光王国飛騨・美濃条例を施行した。本年4月には産業労働部を産業労働観光部に改称するなど観光振興に力を入れている。国においては10月に観光庁を設置するなど観光振興を強化しており、観光産業への期待の高さがうかがえる」 ──特に力を入れていることは。 「先ほども話したが、広域観光の推進に重点を置いている。特に7月5日の東海北陸自動車道全通により岐阜と富山が近くなった。岐阜の観光資源と富山の新鮮な魚を組み合わせたらより魅力が増す。今年度から新たに富山県と連携し、広域観光マップの作成、道の駅を活用したスタンプラリー、羽田空港での観光展などを共同で実施している」 ──岐阜に来る外国人観光客の傾向は。 「まだまだ外国人観光客が少ないので、もっと来てもらいたい。このたび、飛騨高山美術館がミシュランで3ツ星を取得し、また、美濃和紙あかりアート展実行委員会がティファニー財団賞伝統文化大賞を受賞した。岐阜の観光資源は国際的にも高い評価を受けており魅力は十分備わっている」 「岐阜県は海外では台湾からの来客がトップ。日本全体では韓国がトップなので珍しい。台湾では経済発展が進んで昔ながらの風景が少なくなっている。岐阜を訪れると飛騨高山や白川郷、馬籠宿などの懐かしい風景に巡り会えることが魅力なのではないか。また、台湾では雪が降らないので、岐阜で雪に触れられるのも大きな魅力。その他、最近の傾向として、東濃地方の美濃焼の作陶体験なども人気。体験型観光を求めてくる人が多い」 ──燃油の高騰でマイカー利用者数の減少が懸念される。東海北陸自動車道が全通したが、車を利用した観光の現状は。 「全通して1カ月経つが、例えば沿線上にある白川郷は7月の駐車場利用台数が前年の7割増となった。岐阜市の長良川鵜飼も5月の鵜飼開幕以来の累計乗船客が前年より6日早く5万人を突破した。また、郡上市でも各観光施設の入り込み客数がおおむね前年同期比120%を超えている。名古屋や岐阜発の北陸バスツアーも好評らしく、全線開通により岐阜に海ができたという見方もできるだろう」 ──全線開通に伴った宿泊施設の動きは。 「高山市には観光ホテルや旅館が数多くあるが、新たにビジネスホテルが2棟オープンするという話を聞いている。全通にともない、これまでとは違った宿泊施設を求める旅行客が増えるなど、ニーズが多様化しているのかもしれない」 【プロフィール】 おぜき しょうじ 青山学院大卒。56年濃飛倉庫運輸入社。87年社長。99年から会長。今年3月、岐阜県観光連盟会長就任。75歳。