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 ■観光業界人インタビュー 第2534号≪2009年10月17日(土)発行≫掲載
古くからの利用法を見直せ
消費者に正確な情報発信


源泉湯宿を守る会
会長
平野富雄氏


──温泉を取り巻く状況は。
 「元来、出たお湯を循環ろ過せずそのまま入るのが日本の温泉の入り方だ。地下から出てきたままの温泉は非常に雑菌が少なく、昔から外傷治療に使われてきた。石膏泉や重曹泉は胃薬などの薬と成分が同じであるため特に飲用に適していて、入浴と両方で使われてきた。いずれも源泉そのまま使うことで効果が得られるものだ」

 「石油ボイラでの加熱が始まる昭和35〜40年ごろまで温泉旅館は、得られた温泉が持つエネルギー分だけの人を受け入れていて、『エコ』なものだった。旅館も、使える温泉の量と収容人数が対応しているのが暗黙の了解だった。しかしボイラに頼るようになり、温泉の持つエネルギーや効能を無視して加温、加水を始め、人工的な温泉を使う大型施設となってしまった」

 「『安い』『景色がいい』『いろいろな設備がある』といった循環湯利用の大型温浴施設がもてはやされているし、人工鉱石風呂やスーパー銭湯を『温泉』と思っている人もいる。日本では『温泉』という言葉を使うだけでビジネスがうまくいく。『温泉』が意味するものがあまりに幅広くなりすぎたうえ、行政も業界も研究者もその区別をあいまいにしたまま今に至っているため、2重3重に混乱しているのが温泉の現状だ」

 「『加温、加水』イコール循環と見られることがあるが、昔から温度の高い温泉には水を入れて冷ましていた。ただし、加水が必要なほどの高温泉は限られていて、古くから自然湧出している温泉のおよそ半分は温度が42度以下の『鉱泉』。鉱泉は温度の低い温泉としてそのまま入っていたので、当初の温泉法では加温や加水に言及しておらず、結果、今の加温、加水を伴った循環湯の台頭を許すがままにしている」

 「環境省は温泉法だけですべての『温泉』を規定できると考えている節があるが、循環湯と自然の温泉では明らかに利用形態が違うのだから管理の仕方なども分けるべきだ。温泉法は温泉の使用量についての規定がなく循環湯の施設にとって都合がいい。規定がないため、わずかに自然の湯を混ぜ循環したものを『温泉』とする施設も出ている。もっと行政や業界団体がしっかりしなければならない。『温泉利用法』を作ってかけ流しなどの温泉と循環湯を分け、表示もひと目で違う性質の湯だと分かるようにすべきだ」

──大深度(1千メートル以上)掘削による源泉100%の施設については。
 「大深度掘削は温泉源を枯渇させる原因の1つになっており、規制しなければならないものだ。また海岸地域などは特に大深度掘削で開発された温泉が多いが、火山性の温泉と比べ明らかに成因や変化の様子が違い、使うほどに海水に近くなる。海岸からの距離が近すぎる場合には、『深さ何メートルでの温度が何度のものは温泉と認めない』となどの規定を設けたほうが良い」

──源泉湯宿を守る会が業界に向けて発信できること、果たせる役割は。
 「昔からの温泉を残すのが1つの役目だ。循環湯とは違う、本来の温泉を大切にした利用形態こそが本流であることを示したい」

 「消費者に分かりやすく温泉情報を明示していく流れも提起したい。例えば温泉が高温の場合、行政の現場でも当会も適度な加水は限定的に認めている。重要なのは、加水ならばその詳細をはっきり書いて示すことだ。温泉の成分や量、使い方を明示したうえで、消費者がニーズに合ったものをチョイスするのがあるべき姿。大きい施設志向の人も、日本古来の温泉志向の人もいる。最近は浴漕の中身を知ったうえでその時どきで自分の入りたいものを選んで入る人が増えてきた。だからこそ正しい情報発信が求められている。また日本観光の魅力として温泉を挙げるなら、トラブルが起きぬよう、外国人に対してはより分かりやすい説明と正しい温泉文化の発信が必要だ」

──会としては取り組みを広げたいか。
 「100軒くらいまで増やしたい。旅館の経営に直接役立つわけではないが、見学会などで学ぶことは宿の主人にとって意味があるはずだ」

 「業界はもっと温泉やその利用方法について真剣に学び、見直すべき。その上で、湯治のような温泉の利用形態を復活させ、さらに湯治を療養と認める国の保険システムの整備などを訴えるなど、発想力を豊かにしてアピールすべきだ」

【ひらの・とみお】

【聞き手・小林茉莉】


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