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観光業界人インタビュー 第2611号≪2011年6月4日(土)発行≫掲載
役職員の意識改革を
日本観光振興協会 会長
西田厚聰氏
今年4月1日、日本観光協会と日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)が合体し、「日本観光振興協会」が発足した。東日本大震災、福島第1原発事故という未曾有の危機の中での船出となったが、新組織は日本観光の牽引役としての役割が期待されている。6月9日に仙台市で開かれる通常総会(ホテルメトロポリタン仙台)を前に、西田厚聰会長(東芝会長)にインタビューした。
──新しい組織の意義をどうとらえていますか。
「観光立国を実現するためには、観光の主体である『地域』の観光振興を図るとともに、地域と観光産業および他産業を含めた幅広い連携を促進し、提言活動や各種事業を行う、観光業界を代表する組織の確立が必要だ。これまで、日観協とTIJは地域、産業というそれぞれの観点から観光振興を図ってきたが、合体により全体的なアプローチが可能となり、かつ効率的・効果的な事業展開が可能になった。例えば、日観協が実施してきた観光地域づくりや旅行商品造成支援などに産業界の協力が得やすくなり、より地域にとって有益な事業が展開できる」
「意義のひとつには提言機能の強化もある。地域と産業界が一体となって作り上げた提言や要望は説得力のある強力なものであり、観光の発展に必ず貢献するだろう。観光庁を始めとする関係各機関に積極的に働きかけていきたい。また、支部組織を活用し、各地域、ブロックごとの異なる会員からの意見や要望を集約していくフレキシブルなプラットフォームも構築していきたい」
──入会してよかったと思わせるためには。
「会員をはじめとするステークホルダーに対し、入会のメリットをより分かりやすい形、目に見える形で提供していくことだ。そのためにはコスト意識(費用対効果)、目的意識(事業目的の明確化)、責任意識(やりっ放しにしない)を持つことが大事だ。役職員の意識改革といった協会の体質改善にも着手する。そして、会員の皆さんに『新しい組織になったんだ』ということを意識していただけるようにしたい」
──TIJの機能をどう生かしますか。
「TIJは産業界との結びつきが強く、その機能を十分活用して事業を展開したい。ただ活動範囲が東京中心だったことから、今後は事業範囲を各地域に拡大していく方針だ」
──協会の当面の活動については。
「新組織としての実質的な活動、事業の第一歩は4月21日に東京都内で開いた『東北復興支援の集い』となった。被災地の地方自治体はもちろん、観光庁、観光協会、観光関連団体・企業の協力をいただき、約600人が参加、復興に向け気勢を上げた。一定の評価もいただいたと認識している。また、『震災後の観光復活に向けた要望と提言』をとりまとめ、5月25日に観光庁長官に手渡した」
「観光は農林水産業、小売業など幅広い産業に波及効果をもたらす総合産業だ。観光以外の業種からも会員となってもらい、一体となって観光立国を実現していくことが必要。既成の枠にとらわれない技術やノウハウを結集して観光分野におけるイノベーションを創出したい」
──東日本大震災とその後の原発事故は観光にも大きな被害をもたらしました。
「最も影響を受けたのはインバウンドだ。JNTOの調べによると、3月は前年同月比で50.3%、4月は62.5%のそれぞれ減少となった。しかし、観光庁の積極的なPR活動もあり、中国からの団体ツアーも入ってくるなど回復の兆しも見えつつある。日本人の旅行についても、国内・海外ともゴールデンウイークを境に動き始めているようだ。しかし、震災前に戻るのはまだまだ時間がかかる。協会としては観光関連団体などと協力し、旅行需要を喚起するキャンペーンや送客支援策を早急に打ち出したい。6月の通常総会は仙台市で開くが、都道府県観光協会長会議など各種会議も東北地域で開こうと考えている」
──インバウンド対応は。
「5月17日から米・ラスベガスで開かれた世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のグローバルトラベル&ツーリズムサミットで、日本は安全であり、魅力的な観光地であることをアピールした。今後も機会あるごとに訴え、正確な情報発信に努めたい」
──WTTCは来年4月に東京で開催されますね。
「日本では初めての開催だけに、日本の豊かで魅力的な観光資源、そして東北の復興をアピールできる絶好の機会となる。一部は仙台市で開催されることが決まっている。また、日中韓観光大臣会合も来年は東北で開催される」
──今夏は電力需給対策が実施されます。観光業界にとっても厳しい夏となりそうです。
「一方で、産業界では夏季休暇の分散化や長期間の休みで対応する動きが出ている。協会として家族旅行、滞在型旅行の奨励を通じて需給緩和に寄与していくことが期待されている。節電を旅行需要喚起のチャンスととらえ、『夏休みに家族で旅行を』と訴えていく。どのような形でやっていくのか、早急に詰めていく」
「今後、いろいろな展開を図る上で留意すべきことは、東京の発想ではなく、地域の実態や課題を把握して、地域の発想を取り入れた事業、支援策でなければならない。例えば、東北地域の旅行商品を造成する際に大手の旅行会社の支店や、東北6県で400社もある全国旅行業協会の会員企業の協力を得ることで、地域ならではの商品造成が可能になる」
【にしだ・あつとし】
東大大学院卒。1975年5月東芝入社。取締役執行役専務、取締役代表執行役社長などを経て、2009年6月から取締役会長。10年6月日本観光協会会長就任、11年4月から現職。日本経団連副会長。三重県出身、67歳
【聞き手・内井高弘】
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