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観光業界人インタビュー 第2660号≪2012年6月16日(土)発行≫掲載
「エコ・小」運動を提唱
「新湯治」で温泉地活性


国際観光施設協会会長
中山庚一郎氏


──4月1日、公益社団法人に移行しました。税制上の優遇措置があるものの、事業に制約が課せられる公益法人を選択したのはなぜですか。
 「当協会は旅館・ホテルや観光施設に関する設計・施工、コンサルタント、メーカーなどで構成された技術者集団であり、自分たちの利益のために活動するものではない。観光に関連した公益活動をやっているのだから、公益社団法人に移行するのは当然のこと。国も事業活動の公益性を認めたということだ。制約は多いが果敢にチャレンジしていきたい。観光立国に貢献すべく、国際的観光の力によって魅力的な地域の創造を目指したい」

 「会員も意識を変えてもらわなければならないだろう。今後は、慈善事業ではなく、協会の活動を社会に理解していただいた上で支援してもらい、活動領域を広げていくことが求められる。そのためには積極的な情報発信が必要だ」

──東日本大震災で観光関連施設も大きな打撃を受けました。いち早く「創造的復興」を提唱しました。
 「地球に住んでいる以上地震を始め、災害は絶対に起こる。その大きなものが来てしまったということだ。変革の機会と捉えて、前向きに活動していかなければならない。また、復興に際しては『創造的復興』でなければ意味がない」

 「スーパー堤防が有名だった岩手県宮古市の田老町の人たちと話したのだが、皆さん『今までのように暮らしたい、仕事をしたい。津波は50年、100年の災害。普段の海は幸を与えてくれる。例え防潮堤は3メートルでもすぐに高台に逃げればいい。その時仕事場が流れるのはやむを得えない』と言っていた。生きていればやり直せる。津波警報が出たらすぐ高台に逃げ出せるような構造の町を創ろうと話した。地域の皆が望めばできないことはない。その場合、夢や誇りが持てるような美しいものでなければならない。つまり、観光的な価値を持つもの。その価値によって観光ブランド化ができる」

──施設の省エネに熱心ですね。
 「2月のホテレスに合わせ、旅館・ホテルの省エネなどを支援する相談コーナー『エコ達人村』の開設やコスト削減のためのセミナーを実施しており、おかげさまで好評を得ている。エコの考え方で小さなエネルギーのシステムにしようとする『エコ・小』運動を提唱している。例えば、地域の文化や暮らし、知恵の復活。節電への理解を求めた上で、夏は風鈴やすだれを用意、団扇うちわを配り、玄関には打ち水をして宿泊客を迎える。冬は湯たんぽや炬燵こたつで暖まってもらうなど、日本古来の生活文化を使うやり方は、旅館でこそのサービスだ。ただ、1軒だけでやったのでは効果はない。地域で取り組む姿勢が必要だ」

──観光交流空間のまちづくり研究会の活動も盛んです。
 「5月上旬、長野県の別所温泉で研究会を開いた。ここは03年をピークに宿泊客数は減少傾向にあったが、10年を底に盛り返しており、その秘密を探った。その原動力となったのが観光協会や旅館組合、地元自治会、長野大などで組織する『別所温泉魅力創生協議会』だ。詳細は省くが、この取り組みは地域活性化を考える上でのモデルケースとなる。ぜひ参考にしていただきたい」

──ケースは違いますが、最近開業した東京スカイツリータウンはどうですか。地元活性に貢献するのでしょうか。
 「ちょっと懐疑的だ。スカイツリータウンという1つの“島”だけが潤って、周辺に波及しないのではないかと危惧している。今ひとつ住民の熱意も伝わってこない。いずれにしても、1年後、2年後がどうなっているのか見守っていきたい。地域活性化と言う点では注目に値するエリアだ」

──「新湯治」という考え方も提案されています。どんなものでしょう。
 「昔あった湯治を現代に合わせて、温泉の新しい使い方を打ち出したいと思う。昔は温泉に何日も滞在したものだが、スタイルも変わり、1泊2日、せいぜい2泊3日だ。長期滞在というのが旅行のこれからの流れであるのなら、新湯治を考えるべきである。温泉療法のあり方、生活矯正医療師の確保、食事、周辺観光をどうするかなど課題は少なくないが、1週間程度で10万円程度の宿泊プランが提供できるようになればいい。協会内でも旅館経営者を含めた研究会を発足させ、今後議論を進めていく」


【なかやま・こういちろう】

【聞き手・内井高弘】


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