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観光業界人インタビュー 第2676号≪2012年10月13日(土)発行≫掲載
周辺自治体と連携強化
アクセス整備も課題に


富岡市長
 岡野 光利氏


──8月下旬、「富岡製糸場と絹産業遺産群」を世界文化遺産に推薦することが正式に決まりました。
 「順調にいけば、2014年6月か7月にユネスコ世界遺産委員会で登録される見通しだ。03年に当時の知事が世界遺産を目指すと表明、富岡市も実現に向け取り組んできたが、ようやくここまで来たというのが率直な感想だ」

──遺産群は4つの資産で構成されていますね。
 「明治政府が1872年に設立した日本初の官営製糸工場である『富岡製糸場』(富岡市)、近代養蚕農家の原型となった『田島弥平旧宅』(伊勢崎市)、養蚕技術の教育機関だった『高山社跡』(藤岡市)、蚕の卵(蚕種)の冷蔵施設『荒船風穴』(下仁田町)の4つだ」

 「製糸場は長さ100メートルを超える木骨煉瓦造の繭倉庫や繰糸場など、主要な施設が創業当時のままほぼ完全に残されており、和洋折衷のデザインも見どころだ。また、絹は一部の富裕層しか身につけることができなかったが、製糸場の稼働により絹の大量生産技術が可能となり、大衆にまで広がった。繊維産業、そして繊維文化を伝える貴重な遺産と自負している」

──とはいえ、製糸場単体だけでは観光面でちょっと弱い気がします。
 「確かに(笑)。そこで製糸場を起点に群馬サファリパークに行ったり、妙義山を登ったり、あるいは温泉地へ足を運んでもらう。そのためには周辺自治体との連携が欠かせず、一緒になって周遊ルートの提案などに取り組みたい。温泉の帰りに製糸場に来てもらうケースもある。世界遺産登録をにらみ、広域観光の視点で製糸場を生かすことを検討していく」

──市民の反応はいかがですか。
 「富岡は観光地として後進地で、これまで本格的に取り組んでこなかった。『世界遺産になると観光客が増える』といってもピンと来なかったようだ。ただ、世界遺産の動きが確かなものになるにつれて、観光客も増えてきており、市民の意識も変わりつつあると思っている」

──群馬県初の世界遺産になりますが、県に期待することは。
 「製糸場は県にとっても大きな観光素材となり、有効に活用してほしい。そのためには県内の観光地や絹産業遺産との連携が必要であり、県にはその旗振り役となってもらいたい。また、製糸場の保存や整備活用も重要になってくるため、その費用の問題も出てくる。県の協力が不可欠だ」

──4資産はちょっと離れていますね。
 「正直、アクセスの問題はある。現状、車で回るしかない。その車にしても駐車場の問題がある。周遊バスを走らせるという手もあるが、具体的な話はない。また、登録されれば観光バスも増えてくるだろうが、市としては、外周部に駐車場を整備して、パーク&ライド方式での対応を考えている。訪れた人には、街なかを歩いてもらうことを基本にしたまちづくりを考えている」

──最寄り駅は上信電鉄の上州富岡駅ですが、電車の本数があまり多くありません。ちょっと不便です。
 「新幹線の高崎駅着に合わせたダイヤの改定や週末の増便、フリー切符の設定など対策を考えているようだ。JRも周遊ルートを検討していると聞く。地方鉄道の存続のためにも、世界遺産を絶好のチャンスととらえて、話し合いの場を設けて意思疎通を図りたい」

──市の観光客数は。
 「11年で約213万5千人となっている。東日本大震災の影響もあってか前年と比べ10万人ほど減っている。最も多いのは妙義山で年間約70万の人が訪れている。次いで群馬サファリパーク。製糸場は約23万人となっている。最近は、観光客が目に見えて増えており、週末はかなりの人出でにぎわっている」

──1872年の設立というと、今年で140年ですね。
 「10月7日に製糸場の東繭倉庫で140周年記念式典を行う。市のイメージキャラクター『お富ちゃん』の披露や世界的デザイナー、山本寛斎さんの講演も予定している。前日には歌手の加藤登紀子さんのコンサートも行われる」

──市長として観光行政に対する意気込みを。
 「世界遺産を奇貨として、観光振興や地域の活性化に真剣に取り組んでいく。人口約5万人の小さな市だが、世界遺産を誇りとして観光客をもてなしたい」


【おかの・みつとし】

【聞き手・内井高弘】
※インタビューは9月中旬に行った。


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