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観光業界人インタビュー 第2706号≪2013年6月8日(土)発行≫掲載
食材情報開示し客に判断委ねる
二宮社長
二宮 伸介氏
新興国の経済発展に伴い、インバウンドに占めるイスラム教徒の割合は急速に拡大している。一方で、彼らをどう迎えるか、悩みを抱える旅館・ホテルも少なくない。イスラム圏の事情に詳しいハラール(ハラル)食材専門商社、二宮(東京都渋谷区)の二宮伸介社長に、イスラム圏から来る宿泊客を自施設に迎える際の旅館・ホテル側の準備すべきことや注意点について聞いた。
──「ハラール」とはどのような意味か。
「(イスラム経典の)コーランに出てくる神、アラーの言葉だ。食べてよいものが『ハラール』、いけないものは『ハラム』。よく知られているのが豚由来、アルコール由来のものは一切禁止ということ。食品だけと思われがちだが、衣服や化粧品など身に付けるもの全てハラールにかかる」
「動物が生きているうちに(イスラム教の聖地)メッカの方向に体を向けて処理した肉がハラールの肉となる。また、清涼飲料水に含まれるビタミンCはアスコルビン酸が含まれるが、被膜のゼラチンは豚由来だ。このように生産過程でハラールに反したものが混入してもいけない」
──日本ではどこが認証を出しているのか。
「宗教法人日本ムスリム協会だ。しかし、最近になって複数の民間会社やNPО法人が認証を出し始めた。これは問題だ。ほとんどのイスラム教国は、その国を代表するイスラム宗教法人や国の機関が認証している。認証はビジネスではない」
──旅館・ホテルは認証を受けられるか。
「まず無理。酒類が提供できなくなる。また『メニューで、認証を受けた食材を使った料理名の横にハラールマークを付けたい』という質問をよく受けるが、それは駄目。ハラールは食材だけではなく、食器や器具など全てハラール専用にする必要があり、料理人もイスラム教徒でなければならない」
「ある旅館が『ローカルハラール認証を受けた』と主張しているが、イスラム圏に『ローカルハラール』という言葉はない。ハラールのチェックができているのか大いに疑問だ」
──そこまで厳しいなら、イスラム教徒の客に食事を提供できないのでは。
「『食材がハラール』という情報開示は問題ないし、むしろやるべき。食べるかどうかは客が判断する。また、ハラールマークのある調味料などをさりげなくテーブルに置くと、客は配慮してもらっていると感じ、施設側への信頼感が高まる。イスラム教徒専用の食器を用意できればなおよい」
「日本人客の宴会場の近くでイスラム教徒の食事を提供しないほうがよい。宴会場は豚やアルコールがあり、これらが近くにあるだけで嫌悪感を持つイスラム教徒もいる」
──食事以外で心がけるべきことは。
「イスラムに対する理解が必要だ。一神教で神はアラー、礼拝や断食、巡礼を行うといった基本を知ってほしい。あいさつも従業員が積極的にアラビア語のこんにちは『アッサラームライクン』『ワライクンサラーム』と言えば、客はうれしく感じる」
「部屋に聖書、冷蔵庫にビールがあるのは論外。事前に撤去しておく。お祈りの部屋を男女一室ずつ、メッカの方向が分かる磁石とともに用意できればなおよい。逆に施設側が気を使いすぎて、お祈りのタイムスケジュール表を作ることがあるが、これはやめたほうがよい。客は旅行に来ているのであって、お祈りを後回しにする人もいる。そういう人がプレッシャーを感じて旅行を楽しめない」
【にのみや・のぶすけ】
慶応義塾大学法学部卒。サラリーマンを経て輸入ビジネスを手がけ、2003年、ハラール食品の輸入を始める。翌年、日本で初めて日本ムスリム協会のハラール認証を受けてパンの製造を始める。現在、インバウンドに力を入れる自治体や旅館・ホテル、旅行会社から数多くの相談を受けている。55歳。東京都出身。
【聞き手・大城登志和】
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