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観光業界人インタビュー 第2759号≪2014年7月19日(土)発行≫掲載
運営、会議 すべてを透明化
会費以上の価値がある事業
日本旅館協会会長
針谷 了氏
日本旅館協会の6月26日の通常総会で、新会長に選出された針谷了氏(湯元舘、滋賀県・おごと温泉)は、あいさつで「私の使命」として(1)協会の正常化(2)会員のための事業推進(3)観光立国実現への貢献—の三つを挙げた。協会は旅館2団体の合併による設立から約2年が経過し、役員改選で新体制が発足。針谷会長に協会運営について聞いた。
──使命の一番目に協会の正常化を挙げた。昨年から理事会などでは、事業会社(旅館の保険事業などを行う日本旅館ホテル事業=旧日観連事業)の問題などを巡ってさまざまな議論があったと聞く。また、今年度の総会では事業・決算報告が上程できなかった。何から手をつけるのか。
「役員改選で新しい体制になった。人が変われば、考え方も変わる。いろいろな課題があるが、丁寧に一つ一つ対応していく。事業会社の問題は、きっちり解決しないといけない」
「事業・決算報告は、書面総会は法的に問題があるので、臨時総会を開くことになる。正副会長会に諮った上で早期に対応したい」
──事業会社の件は何が問題なのか。関西支部連合会は、経営権の取得を提案しているが。
「事業会社は、協会が株主ではない。そうした最初のスキーム自体がおかしい。少なくとも合併時に、株主を協会100%にしておけば、何ら問題はなかった。相手があることなので、経営権取得という形になるかは分からない」
──協会運営はどう変えていくのか。
「運営、会議、事業すべてにおいて透明化を図る。正副会長会議の内容もしっかりと理事に報告し、理事会の内容も会報などを通じて会員にお知らせする。会員が適切に判断できるように情報を公開していく。加えて権限の明確化が必要だ。会務に関する問題が再発しないように、運営の仕組みづくりを考えたい」
──会員のための事業では何に取り組むのか。
「クレジットカードの手数料率低減に取り組む。クレジットカードに関しては、日本は諸外国と比べて手数料率が高い。仕組み自体を変えたい。訪日外国人2千万人を目指す中で、カード利用が増えれば負担は増す。これを是正する必要がある。どのように実現すべきか考えていく」
「ITの活用にも取り組む。全国セミナーを開催したい。個人客への対応、スマートフォンへの対応などを進め、トラベルディストリビューション(流通)の健全化にもつなげたい。併せて会員施設のホームページの多言語化を目標値を定めて啓蒙したい」
──協会で継続的に取り組んでいるオープンウェブ(客室管理・販売事業)は。
「2013年度の販売額は約4千万円だが、ケタを一つ上げて4億円、いずれは10億円にしたい。各旅館の販売が増えれば、それに続いて活用する会員が増える。手数料率は他の宿泊予約サイトと比べて低い5%だ。ネットエージェントを経由していた予約より利益が出る。特定のネットエージェントに依存せず、流通の寡占化を防ぐことにもつながる」
──観光立国実現への貢献にはどう取り組むのか。
「いろいろな提言に出ているように、訪日外国人2千万人を目指すには、ゴールデンルートだけではなく、地方に旅行者を呼び込む必要がある。そのために何をするか。観光庁の担当者を招いて政策の勉強会を開くとか、日本政府観光局(JNTO)などと連携して何かやるとか、具体的な活動にしていく。地域活性化につなげることが必要で、何より旅館の利益にかなうようにしていく」
──委員会の設置は。
「『総務』『クレジットカード』『IT戦略』『観光立国』の四つの委員会を設置する。総務は、事業会社の問題をはじめ、定款・諸規定の整備などについて検討する。クレジットカード、IT戦略、観光立国については今話した通りだ」
「耐震改修の問題は、全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)と共同で取り組みたい。組織内の手続きはこれからだが、双方から3人ぐらいずつ選出して耐震問題対策本部を設置するような案を考えている。国、地方の財政措置にかかわる政治問題なので、旅政連(全国旅館政治連盟)の下に設置することになるかもしれない」
──会員や旅館業界に向けたメッセージは。
「“よってたかって”良くしていきましょう(笑い)。おつきあいではなく、互いの利益が出ることをやりたい。我々の協会は、旅館の売り上げのプラスになるとか、経費が削減されるとか、会員旅館の経営が良くなることに取り組む。利益だけを目的にするわけではないが、会費以上の価値がある事業をやっていく」
「旅館業には科学的な経営が必要だ。情緒的なサービスに優れた経営者は多くいるが、財務や戦略が非科学的で、低収益に陥っているケースもある。以前と同じことをやっているが、時代は変わっている。経営を合理的に変えていくのは先端を走る人たちや若い人たち。最先端を行く人をつくり、それが他の刺激となって、会員全体の底上げにつながるようにしたい」
【はりたに・さとる】
同志社大商学部卒。1969年8月に湯元舘入社、84年8月に社長、2011年3月に会長。全旅連の常務理事、青年部副部長、旅政連の公営宿泊施設等対策本部長などを歴任。日本旅館協会ではIT戦略委員長を務めた。63歳。
【聞き手・向野悟】
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