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観光業界人インタビュー 第2760号≪2014年7月26日(土)発行≫掲載
観光資源の活用と保全に役立てたい

公益財団法人日本交通公社会長
志賀 典人氏

──観光資源の評価に関する研究の成果をまとめた写真集「美しき日本─旅の風光」を5月に発刊した。観光業界から好評と聞く。
 「1912年に『ジャパンツーリストビューロー』として立ち上がり、1963年に営業部門(現JTB)を切り離し、我々が旅行・観光産業専門の調査機関になって、昨年12月に50年を迎えた。その記念事業として行ったのが、琉球大学と立教大学での寄付講座、観光地経営のテキストと50年史の冊子の制作、そして、この写真集の出版だ。資源評価の研究を2年前から続けてきたが、その結果をきちっと社会に還元するために際立った観光資源については皆さんに提示をしようと写真集の形にした」

 「おかげさまで観光庁や日本観光振興協会、JTBなど多くの方々から高い評価をいただいている」

──観光資源を評価する研究の狙いは何か。
 「歴史的に言うと1960年代の後半、当時は高度成長に入り始めて、日本の観光資源をこれからどう活用していくか、どう保全していくかを考えたとき、優良な観光資源はしっかりリストアップして、そのうえで開発や保全をしていくべきだという問題意識から自主研究として始めた。一方、当時の建設省にも国土全体に道路を整備するときに産業の側面だけではなく、観光の側面からもチェックをしておきたいという意識があって、1972年、我々の観光資源評価研究を生かした『全国観光資源台帳』の制作依頼があった。その後、何度か少しずつ見直しをしてきた」

 「今回は、観光政策計画者の視点でのリストアップではなく、旅行者の視点から見直すことを大きな研究テーマにした。旅行者の動きが多様化している。知識や経験が豊富になり、観光地に対する見方が高度化している。そのことをしっかり押さえた。外国人のお客さまが増えているので、外国人の視点も入れた」

──写真集に掲載されている観光資源は。
 「最初の観光資源台帳は『特A級』から『C級』まで非常に細かく作ったが、今回は特に優れた『特A級』と『A級』について提示した。今までは自然や建物など実際にあるモノを中心に資源評価をしたが、今回は先ほどの選定基準の要素を考えると観光資源はそれだけではないということで、食や温泉、イベントなど人間の活動に関わっているものもリストアップした。特A級は世界に誇示できる高いレベルの観光資源を選んでいる。例えば富士山や京都の神社仏閣といった文化資源などだ」

──「世界に誇示できる」とは、どのような観点からとらえたのか。
 「例えば、十和田湖は、カルデラ湖として美しく世界の観光地と比較しても負けないことから特A級に選んでいる。奥入瀬も特A級に評価しているのだが、これは渓谷のスケール感となると、カナダの渓谷と比べると子どもみたいなもの。だが、十数キロにわたって流れている川は箱庭的な景観を体現しており、外国にもあれだけ繊細な渓流がそうあるわけではない。代替性がきかない、固有性、独自性がある点を評価した」

──特A級には今回、原宿も入っている。
 「日本のサブカルチャーをあそこまで体現した場はないということで観光資源として評価した。日本の歴史とかかわりの深い繁華街の銀座、大阪で言えば道頓堀は世界に出せるが、原宿をどうするかは激論になった。資源だから、短期的なものではなくて、20年から30年の間、一定の評価があったものを選んでいる」

──観光資源評価の次の取り組みは。
 「B級ではなく、A級に準ずる、今後磨いていけば良い観光資源になるたとえば『準A級』をピックアップしていくなど。また特A級とA級はみなさんのご意見を聞きながら、社会情勢の変化の中で5年単位ぐらいで継続的に見直しを図る。それによって40年前と今と10年後、20年後の、日本人の観光資源あるいは観光に対する考え方がはっきり明示できるのではないか。ロングレンジでの研究を今後続けていく」

──どう取り組めば「魅力ある観光地づくり」が実現できるのか。
 「資源そのものを作ることはできない。だが、磨くことは可能だ。まず一定の客観性や普遍性をもって地域の資源を評価する。資源の位置づけを把握して、自分たちの活用と保全のバランスを考え、きちっと磨きをかける。資源に働きかける人間側の行為が重要だ」

 「特A級だからといって有効に活用されている、保全されているわけではない。富士山は素晴らしいが、観光資源として消費してしまって環境がもっとひどくなるとレベルが下がってしまいかねない」

 「我々は調査研究機関として、日本の観光資源、あるいは観光行動の変化を長い時間をかけてきっちり追いかけていく。地域の皆さんにはぜひその研究成果を観光資源の活用と保全の参考にしてもらいたい」

【しが・のりひと】

【聞き手・板津昌義】


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