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観光業界人インタビュー 第2815号≪2015年9月30日(水)発行≫掲載
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拡大する中国市場 旅館の受け入れ策③
個人客特化で誘客に成功
HPやOTAの活用重視
大和屋本店社長
石橋 政治郎氏
中国からの訪日観光は、査証(ビザ)の要件緩和などに伴って個人旅行(FIT)化が進んでいる。オンライン・トラベル・エージェント(OTA)の活用などFITに絞ってインバウンドに取り組む大阪・道頓堀の老舗旅館、大和屋本店の石橋政治郎社長に中国FITの誘客や受け入れについて聞いた。
──中国をはじめとしたインバウンドの受け入れの状況は。
インバウンドは個人客しか受けていない。ほとんどが自社ホームページ(HP)とOTA経由で、宿泊形態は95%が素泊まりだ。外国人の宿泊者数は2012年度は約7500人だったが、14年度には約1万4300人に増えた。国・地域別に見ると、中国が伸びている。中国は12年度には約千人だったが、14年度には約4千人に増え、2年間で約4倍になった。以前はシンガポールやオーストラリアの方が多かったぐらいだが、外国人客の約3割を占めるようになった。
──インバウンドの経営における位置づけは。
宿泊人員に占める外国人の割合は35%ぐらい。バブル経済の崩壊に前後して国内の団体旅行が大幅に減少した。その売り上げ減少分をインバウンド、素泊まり、地元宴会の需要で補うことができている。近年のインバウンドの好調、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの人気などで、客室稼働率は9割を超えている。
──中国FITの受け入れについて聞きたい。
館内表示は英語。大浴場には、中国語を含めた複数の言語で利用方法を説明したタペストリーを設置している。チェックインの際に手渡す利用案内のシートは英語版だけでなく、中国語版を用意している。客室には当館で作成した月替わりの観光案内のシートを設置しているが、これも中国語版を用意している。会話に関しては、台湾人のスタッフが1人いるが、他のスタッフは簡単な英語などで対応している。設備では客室を含めた館内全域のWi—Fi(公衆無線LAN)はインバウンドに必須だ。
──HPの作成やOTAの活用について考えるべきことは。
HPは、英語、韓国語、中国語繁体字とともに、中国語簡体字のページがある。内容は日本語ページの翻訳ではなく、外国人向けに作るべきだ。当館の場合は、京都や奈良、和歌山など広域の観光情報も紹介し、当館を関西観光の拠点にしてもらえるよう工夫している。当館に宿泊し、荷物を預けて高野山の宿坊に泊まり、またお戻りになる中国人客もいる。
インバウンドも自社HPで直販してはいるものの、外国人はOTAが中心。エクスペディアやアゴダも使っているが、当館では今は、中国人客はブッキングドットコムからが多い。いろいろなOTAを試して、自社に合い、売れるOTAを探せばいい。気を付けるべきは予約とクレジットカード番号の確認。確認メールを送り、返事をもらうようにしている。返信がないこともあるが、ノーショーを減らす効果はある。クレジットカードによる事前決済の普及などは今後、旅館業界として取り組むべき課題だ。
──これから中国をはじめとしてインバウンドに取り組もうという旅館にアドバイスを。
言葉の問題でしり込みする必要はない。英語ができないスタッフも、数カ月で館内案内ぐらいは英単語をつなげて説明できるようになる。また、立地にもよるが、1泊2食にこだわらないこと。素泊まりはやり方次第で十分に利益が上がる。当館は一部の和洋室を除けば和室だが、今は客室稼働率が高く、1室1名は取らない。パートの活用をはじめ人件費を変動費化するなど経営を改善して利益を確保している。
いずれにしても少子高齢化、人口減少で国内市場は減っていく。どうすれば生き残れるか。都市、地方を問わず旅館はインバウンドをやらざるを得ない。これからは二つの「I」。旅館はインバウンドとITに取り組まなくては、明日はないのではないか。
【いしばし・まさじろう】
大阪・道頓堀の老舗旅館の5代目。日本旅館協会関西支部連合会常任理事。同協会本部IT戦略委員会の副委員長で、協会HPや会員旅館HPの多言語化にも取り組む。
【聞き手・向野悟】
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