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観光業界人インタビュー 第2856号≪2016年8月13日(土)発行≫掲載
観光は市政の柱の一つ
日本遺産登録も視野
観光局は来週に法人化を

那須塩原市長
君島 寛氏


 昨年12月の任期満了に伴う栃木県の那須塩原市長選で、元副市長の新人、君島寛氏(68)が初当選した。塩原、板室の二大温泉地を核に観光立市の歩みを強める同市だが、新市長はどんな観光施策を展開していくのか、率直な考えを聞いた。

──市政における観光の位置付けは。

 「目指すべきまちづくり体系として五つの柱を掲げており、その一つに『元気な那須塩原市』というのがある。まちが活気に満ち溢れるためにはそこに住む人々が元気なだけでなく、経済や教育といった人々の生活基盤そのものが元気である必要がある。観光振興はそれを実現するための重要な施策と考えている」

 「市の基幹産業は観光と農業だが、観光産業は裾野が広く、ここが元気になれば雇用も生まれ、市の経済も活性化する。3年ほど前に木下さん(市産業観光部政策審議監・那須塩原市観光局長)を迎え、観光素材の磨き上げやプロモーションの展開など、観光振興に力を注いでもらった。観光事業者の協力もあって、御社の『にっぽんの温泉100選』にもランクインし、成果は着実に出てきている。今後、市政において観光の占める割合はますます大きくなってくるだろう」

 「日本は人口減少、少子高齢化という大きな課題を抱えているが、市も例外ではない。そのため、定住促進の取り組みも行っている。住んでもらうには、まず知ってもらうこと、行ってみたいと思ってもらうこと、そして来てもらってその良さを実感してもらうこと。その意味で、観光で多くの人に来てもらうことは定住促進にも大きく寄与することになる」

──年間の観光予算はどのくらいですか。
 
 「全体では4億6千万円ほどだ。市長就任後、各部の予算を見直し、局の予算も少し減額したが、観光予算そのものについては増額を考えている。必要なものに投資しないと観光地間の競争には勝てない」

──市の観光魅力をどう捉えていますか。

 「塩原、板室両温泉を中心とした温泉地や、那須野が原開拓に関わる明治の元勲の歴史的遺産など、多くの観光資源に恵まれている。特に、日本三大疏水の一つである『那須疏水』や華族が経営した大規模農場『華族農場』などは明治開拓史としても非常に貴重なものだと思う。広く知っていただく必要がある。そのため、近隣市町と連携して日本遺産の登録をしたいと考えている」

 「ある調査によると、旅行の楽しみは1位が温泉入浴、2位はおいしいものを食べること、3位は文化的な名所見物、4位は自然景観を見ることとなっている。市には泉質や効能、色も多彩な塩原温泉郷、下野の薬湯と呼ばれ、その効能などから国民保養温泉地として環境省から指定されている板室温泉といった歴史ある温泉地がある」

 「食の面でいえば、生乳生産本州一という特色を生かした、新鮮でおいしい乳製品がある。その他、塩原高原大根やスープ入り焼きそばなど挙げるときりがない(笑い)。さらに、ショッピングに最適な那須ガーデンアウトレット、スキー&スノーボードのウインタースポーツ、カヌー体験などアウトドアも盛んだ」

──周辺には日光など有名観光地も少なくありません。もっとアピールする必要があると思います。

 「世界遺産がある日光や那須高原などに比べ、まだまだ知名度は低いと認識している。宿泊施設のキャパシティーを比較してもかなわないところではあるが、わが市の温泉地は小規模な旅館が多く、古き良き日本の温泉情緒を残している。これは強みでもあり、アピールいかんでは集客の決め手となる。先ほども触れたが、泉質や食、自然景観など他と比べても負けない資源を備えていると思っている。また、東京から新幹線で約70分、東北縦貫道で東京から2時間圏というアクセスの良さも他にはない魅力だ。おっしゃる通りPRは十分ではなく、もっと力を入れなければならない」

──観光客の入り込みはいかがですか。

 「2015年の観光入り込み客数は998万9千人で、前年比1.3%増となっている。東日本大震災のあった11年には前年の1035万人から812万人まで落ち込んだが、少しずつ回復している。宿泊客数は95万8千人で、こちらは1.7%の増加。一方、外国人宿泊客は約1万人で、全体のわずか1%程度にすぎないが、前年比では46%増となっている」

 「全体として、少しずつだが増えている。観光誘客対策はすぐに結果が出るものではないことは認識しているが、100選にランクインし、順位がアップしていることなどを考えれば、一連の観光施策が奏功している証といえる」

──地の利を生かすという面から考えると、自ずとターゲットは決まってきますね。

 「国内旅行ではやはり首都圏の個人・小グループをターゲットとし、観光プロモーションや誘客対策を講じていく。外国人旅行者についてはアジアの、特に富裕層、FIT(個人旅行)の取り込みを図る。上海に事務所を開設しており、現地の旅行会社にもセールスしている。また、観光専用サイト『ココシル那須塩原』では6カ国語に対応している」

──16年度の観光重点施策は何でしょう。

 「昨年春に那須塩原市観光局を立ち上げ、それまでの内向きのプロモーションから外向きのプロモーションにシフトしてきた。16年度からは、プロモーションは継続しつつも来ていただいた観光客の満足度を上げるための観光地としての質の向上への取り組みに、より重きを置いていくこととしている。栃木デスティネーションキャンペーン(DC)が18年春に開催されることが決まったが、DCはこういった市の取り組みを後押しし、加速させるいい機会と捉えているので、この機を逃さずに重点的に活用していきたいと考えている」

──最近は政府の後押しもあって、DMO(観光地域づくり推進法人)に対する関心が高まっています。局の将来像については。

 「まず、来年度からの法人化を目指し、同時に、塩原温泉観光協会など既存の協会の一体化を図る。17年度は市の観光戦略にとって大きな節目となるだろう」

──旅館・ホテルなど観光業者に期待することは。

 「16年度は来ていただいた観光客の満足度を上げるため、観光地としての質の向上に取り組み、より重きを置いていくという話をしたが、また来たいと思っていただくためには旅館・ホテルなどの個々の施設の品質管理がとても重要になってくる。具体的には清潔で心のこもったサービスの提供はもちろん、プラスαの独自のサービスによる自社の強みの磨き上げなどだ。そうすることで観光地全体のレベルアップにつながる」

 「逆にいえば、品質の低下はそのまま地域の評判を落とすことになる。地域の一員として皆が一体となって満足度を上げていくために取り組んでいただくことを期待している。業界の皆さんと膝を突き合わせて意見交換することの大切さは理解しており、互いに努力して市の観光振興に努めたい」

──市長のご趣味は何でしょう。

 「体を動かすことが好きで、スキーやゴルフなどいろんなスポーツをやったが、一番は野球かな。高校時代はキャッチャーをやっていた。軟式の審判も40年以上やっていた。高校野球が好きで、甲子園に何度も足を運んだ経験がある」

──旅行は。

 「好きだね。特にドライブ旅行が好きで、友人とあちこちに出かけたものだ」

──最後に市長の政治信条をお聞かせください。

 「市長選にあたり、市民の皆さんに三つの約束をした。一つは市民優先の行政、二つ目は国、県、市町村との連携、三つ目は公平で公正な市政運営。この約束を誠実に実行していく」

【きみじま・ひろし】
 1971年4月黒磯市職員として採用。那須塩原市総務部長兼黒磯支所長、企画部長、副市長を経て、2016年1月から現職。旧黒磯市出身、68歳。座右の銘は「意思あるところ道は開ける」。

【聞き手・内井高弘】


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