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観光業界人インタビュー 第2862号≪2016年9月24日(土)発行≫掲載
ツーリズムの将来みつめ
業界課題に解決策を提示
JTB総合研究所社長
野澤 肇氏
──企業使命は。
「ツーリズムに関する調査研究・コンサルティングと人材育成の二つを事業の柱として、観光産業の健全な成長をサポートするのが役割だ。ツーリズム専門の研究所は極めて数が少ない。インバウンド消費を使った経済の活性化や観光をテコとした地域創生などツーリズムが非常に大きな関心を集めている今、われわれが力を発揮しなければいけない。JTBグループと連携を図る一方、少し離れたニュートラルな立場で観光産業に貢献していきたい」
──観光は異業種からも注目されている。
「2020年を見据えて観光産業にあまり関わりがなかったメーカー、IT企業などが観光を梃子に成長を図っている。人工知能や自動運転車、シェアリングエコノミーなど新しい情報通信技術(ICT)による新ビジネスモデルにも観光は切り離せない。ICTで社会も観光も劇的に変わる。今のツーリズム業界の構造やプレイヤーは5年、10年同じ形では続かないだろう。社会や人々の行動変化を前提に将来のツーリズムを考えていかなければならない。われわれは現状の課題に解決策を提示すると同時に将来にどう対峙するか提言する必要がある。また、これから必要とされる観光人材の育成もしていかなければならない」
──国内旅行市場の今後をどうとらえているか。
「LCCの普及や観光列車など国内旅行を楽しむ選択肢が増えた。地域も魅力づくりに熱心で、これに話題作りや刺激策が伴えば今後も浮き沈みはあるが短期的には成長していける。ただ、中長期的には少子高齢化が急速に進み大きな成長は見込めないだろう」
──市場を拡大するためのポイントは。
「市場を冷静に見てミスマッチをなくすことが大事だ。国内旅行に限らず、今はシニア層が活発に旅行をしているが、シニアの中でも団塊の世代が高齢化していくにつれて、主役が交代していく。将来の鍵を握るのは『ミレニアル世代』だ」
「訪日外国人もミレニアル世代が多く、日本人も訪日外国人もミレニアム世代への対応が重要になる。日本の旅行市場は、シニア層を中心に組み立てられている部分が多いので、そこを再構築することが必要だ」
──観光庁は「日本版DMO」を中心に観光地づくりを進めようとしている。
「現状ではまだ日本版DMOを率いる人材が足りない。マネージメントとマーケティングができ、さまざまな利害関係者と調整を図れる人材を育成していくことで、観光による地方創生の一助となりたい」
──訪日外国人客の受け入れは、特に地方で力の入れ具合に濃淡がある。
「これから先の日本人の国内旅行はインバウンドと分けて考えることはできない。インバウンド向けのみの設備や施作などで特別扱いせずに、日本人も外国人もともに楽しめる観光地や観光施設、宿泊施設になっていく必要がある」
──訪日外国人客に対する取り組みで重要なのは。
「国際的な競争にどう打ち勝つかだ。国際旅客は、昨年が12億人、30年には18億人にまで増加すると見込まれている。国際競争で外国に勝つには二次交通を含めたインフラなどを外国人の目線で再構築する必要がある。おもてなしやサービスなど日本的な良さを磨きながら、外国人が利用しやすいように改善していく。それが日本人にとっての利便性向上にもつながる」
──JTB総合研究所の新規事業は何かあるか。
「一つは『観光教育』で、観光教材の製作・販売や通信教育の実施のほか、産学連携の取り組みとして大学生が観光まちづくりプランを作成する『大学生観光まちづくりコンテスト2016』の運営に携わっている。また大学と連携して観光人材育成のカリキュラム作りから講座の運営までを手掛けている」
「これから重要になってくるのが『ユニバーサルツーリズム』だ。専門チームが昨年から取り組みをはじめ、今年、東京都産業労働局の事業の一環である『東京観光バリアフリー情報ガイド』作成事業を受託した」
──社長として注力していくことは。
「会社のビジョン・方向性を明確にすると同時に一人一人の研究員が力を発揮することが極めて重要なので、働きやすい環境を作っていきたい」
【のざわ・はじめ】
1960年6月16日生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本交通公社(現JTB)入社。本社グローバル事業本部事業・マーケティング統括部長、JTB欧州本社社長などを歴任。2015年4月JTB総合研究所常務取締役、今年4月1日から現職。
【聞き手・板津昌義】
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