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観光業界人インタビュー 第2932号≪2018年3月31日(土)発行≫掲載
由布市まちづくり観光局事務局次長
生野 敬嗣氏
──由布市まちづくり観光局立ち上げの背景は。
「2005年10月に由布市は、湯布院町、庄内町、挾間町が合併して誕生した。合併当時は、分庁舎方式を取っていたが、合併10年を機に、行政組織再編計画が進められ、観光課が湯布院町から消えた。将来的に観光を専門に行う組織が必要という議論もあり、これまで民間を中心に観光を進めていたが、できることに限界があると判断。新たに官民で観光の推進組織を立ち上げた。由布市まちづくり観光局は、約7年にわたる検討と実践を経て、行政と民間が一体となって由布市観光を推進するための中核的な役割を担う組織として16年4月1日に設立した。そして、日本版DMOの目指すものは、観光局とほぼ同じであったため、DMOとして活動に取り組んでいる」
──由布市まちづくり観光局の取り組みは。
「立ち上げてすぐに熊本地震が発生。昨年の九州北部豪雨の影響もあり、災害対応に追われた2年間だった。現在も、風評被害対策としての各種情報発信事業を行いながら、観光客の動きについてビッグデータを取るなど、客観的な事実を洗い直している。まずは由布市の観光に関する正しい客観的データを抽出し、数字から現状を分析し、次の戦略を立てる。そして直近3年間で分析を行い、客の発地や経路などの現状把握を行いながら対策を立てていく。由布市では今年4月、JR由布院駅に隣接した場所に情報発信拠点となる『由布市ツーリストインフォメーションセンター(TIC)』を開業する。TICを拠点とした観光案内や情報発信が主な業務だが、同時に滞在、周遊観光の促進にも取り組む。由布市グリーンツーリズム研究会など市内の多様な関係者との連携による滞在プログラムの開発や由布院温泉を拠点とした周辺地域との相互送客の仕組み作りを行う。パンフレットを並べるだけでは意味がない。案内所のスタッフが幅広い情報収集を行うとともにきちんと内容を理解し、説明によるあと一押しを行えるようにしたい。このほか、県をまたいだ広域連携にも取り組んでいる。由布市内だけでなく、周りの地域と共に客を取り込むことも必要。黒川温泉がある熊本県南小国町や阿蘇市などを沿線に持つ、やまなみハイウェイを活用した新たなエリアブランディングや、周遊プログラムなどの開発を行っている」
──インバウンドへの取り組みは。
「インバウンドの比率は伸びている。来年には、大分でラグビーワールドカップの試合がある。外国人はこれまでアジア圏の人が中心だったが、これを機に欧米豪の人を取り込みたい。アジア以外の人にどう由布市を知ってもらうのかを、県の観光組織などと一緒に考えていく」
──組織の目標は。
「地域の人々が受け継ぎ磨き上げてきた地域の哲学を大切にしつつ、これまで十分に行われていなかったマーケティングやプロモーション活動を通じて、地域の世界観を明確に表現し、由布市の市場での存在価値を高める組織となること」
──地域の課題は。
「『憧れの由布院』のようなブランドイメージが崩れつつある。時代が進み、世代交代も始まっている。これまでのブランドイメージにとらわれず、これからの地域をどう作るかを早く決めないと、持続が難しくなる。そのためにも、観光がどう地域に貢献できるか、観光基本計画の見直しや理念についてなど、改めて将来像を議論していきたい。観光は、人が顔と顔を付け合わせての交流。観光客と地元との交流について見直すことが、一つポイントなのかもしれない」
──財源は。
「今は、市からの補助金と観光案内所の事業収益で運営。観光案内所は、宿泊あっせん、辻馬車など着地型観光の手数料やレンタサイクル、ゆふいんチッキ(旅館への手荷物配送など)で収益をあげているが、これは運営経費で消えてしまう。受け入れの間口を大きくし、新たな財源を作る必要がある。新たな商品を作り、市内の店と競合しながら財源を作ることもできるだろうが、商品かぶりや民業の圧迫につながりあつれきが生まれるだう。地域内で競合しながら稼ぐということは地域DMOが本来やるべきものではないと思っている。地域を稼がせ活性化することが役目だ。隣りの別府市は入湯税を上げた。海外のDMOは税金で財源をまかなっているところが多い。別府市の動向を見ながら、新たな財源確保について由布市でも行政と共に考え、今後の方向性を探っていきたい」
──他エリアとの情報交換などは。
「温泉地の課題解決と活性化を目的に、公益財団法人日本交通公社が主催する『温泉まちづくり研究会』は、七つの温泉地(北海道阿寒湖温泉、群馬県草津温泉、三重県鳥羽温泉、兵庫県有馬温泉、愛媛県道後温泉、大分県由布院温泉、熊本県黒川温泉)が集い、年3回ほど勉強会を行っている。その研究会に参加し、入湯税についてなど各温泉地の事例共有や観光推進についてなど意見を交わしている」
──中、長期での取り組みは。
「地域の多様性を高め、消費額を上げる。そのためにも、インバウンドを増やしていく。ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックをきっかけにアジア圏以外の人も受け入れ対応していく。良質な地域イメージを損なわないよう、観光客に満足してもらえるレベルのものを提供し、単価を上げる努力を行う。今後、地域の持続性を確保していくにあたり、自然や景観の保全をどう守るかはもちろん、現在ある由布院ブランドのワイズユースと、地域間相互の連携・協力、保管による『由布ブランド』への昇華を、DMOが率先して地域内外の人をまき込みながら進めていきたい」
【しょうの・けいじ】
14年前に異分野から由布院温泉観光協会職員へ転職。同協会事務局長を経て2016年4月から現職。
【聞き手・長木利通】
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