─インバウンドへの対応─
──政府は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」で2010年までに外国人観光客1千万人を目指している。ポイントとなるのは13億人の人口を抱える中国だ。相当とらないと1千万人はいかないのではないか。
佐々木 アジアの方々の日本に対しての関心は基本的に高い。アジアで最初に先進国となったから、一度は見てみたいと思っている。伸びるとしたら中国だ。これからも様々なトライアルをして、ビジネスモデルを作り上げていきたい。
──儲ける仕組みを作らなければならない。
金井 上海でいろいろ聞いた話では、ヨーロッパとお客さんの取り合いになっている。
太田 中国では一般的にヨーロッパツアーの方が割安感がある。日本は高いというイメージを持っている。
金子 「沖縄に行きたい」と言われるが、代金はグアム・サイパンの方が安いので、そちらに流れてしまう。
太田 しかし、最初から安く受けると、それが相場になってしまう。インバウンドは儲からないと言われるが、今、そういう状態のような気がする。
──外国人客1千万人到達は可能か。
太田 安く受けると、内容が悪くなる。「よくない」となると、同じ人がもう一度来てくれるかどうか。そこがポイントのような気がする。そこをクリアすれば1千万人いくのではないか。
金井 私は可能性があると思う。ただ、中国抜きにして1千万人はない。
──2010年ぐらいか、もう少し早いか。
金井 やはり2010年ぐらいではないか。
今年は愛知万博がある。有効に機能すると思う。04年が500~600万人とすると、何十万かの上積みは間違いなくできると思う。あと、先が見えていない部分のロードマップをどう描くかが大事だ。
要はアプローチの手段。先ほどおっしゃった富裕層に対するもの。個人ベースで富裕層にアプローチするのはなかなか難しい。中国にカード会員がどれほどいるのか分からないが、その顧客を狙う手もある。
金子 2010年にはできるだろう。中国がメーンとなるが、それにアジアの中ではタイのマーケットをどうプラスアルファするかだろう。
──昨年はできないという答えが多かったが、感触がだいぶ違うようだ。
太田 問題は、1千万人を受け入れるシステムを旅行業界としてしっかりつくっていくことだ。
金子 街づくりと、インバウンドに関する法の整備をしっかりしないといけない。白バス問題などに足を引っ張られてしまう可能性がなきにしもあらずだ。
─新時代のビジネス─
──新旅行業法の施行は旅行業者にとってプラスかマイナスか。
佐々木 我々はプラスと考えている。自ら仕入れしたものを値付けして販売できるといった、我々の責任範囲がより明確に規定されるからだ。もちろん、ある程度の収益率を確保しようと思ったら、オウンリスクでかなりの商品を大量に仕入れることは必要となる。
金井 我々がどう対応するかというところが極めて大きな課題ではないか。それによってかなり変わってくる。例えば、企画旅行という概念ができて、「自己の計算において自由な値付け」が認められるわけだが、そのことは逆に、今までの我々の業界のパターンでいくと、そこを削ってどうやって低価格で提供するかみたいな、変なリズムに入ってしまう。そこをフォローしなければならない。
今、低価格化の流れがある。今と同じような形に流れてしまうのではないかという懸念がちょっとある。
太田 企業体力・仕入力の差が出てくるだろう。それと、企画力が反映される。社員教育をしっかりしないと、せっかく培ってきた企画力・提案力を評価されるビジネスチャンスをのがしてしまうことになる。社員が勝手に安売りに走る、という問題点をどうするかだ。
──手数料率は歴史的にも10~12%が適切だ。あとは商品造成力で払われるべきではないか。その力が旅行業者には欠けているのでは。納得して払える手数料の仕組みが構築されれば、旅館にも共存の意識が芽生えるはずだ。
佐々木 今後、うちは基本を15%プラス1%でやっていく。1%が企画料。05年度の契約更改にあたり、99%の旅館・ホテルから了解いただいた。これは、この方式が支持されたと理解している。もし、手数料10%企画料プラス5~6%の世界に持っていくには、旅館さんとの間によほどの信頼関係を構築しなければならないと思う。
太田 手数料を10%にして企画料7~8%というのは難しい。やはり送客先を絞らないとできない。
一気にそれをやるのではなく、ある一定の商品でテストをしながらやっていくのは多分できるだろう。ただ、ちょっと厳しいところはある。
金井 考え方は理解できるが、現実になると難しい。営業サイドでみれば、どこまで品ぞろえをするかという議論になってしまう。絞れば絞ったでひとつのビジネスモデルになるが、絞ったところだけで今やっている商売の何%をカバーできるかというと、非常に微妙な話だ。絞ったところだけで今と同じ数字をキープできるかというとなかなかできかねるところがある。その悩みではないか。
──IT社会といっても、60歳以上の人は圧倒的に電話を使う。高額商品はインターネットより電話で予約をする傾向が強い。旅行会社の支店でも、対応する社員を指定する客が多い。高額所得者層は圧倒的にそうだ。
佐々木 都内の支店で多くの収入を上げている女性の社員がいる。彼女の最大の特徴は再指名が多いこと。そして、店に人が2~3歩入ったら、その人がお客さまかそうでないかが分かるそうだ。
金子 女性社員に何人かカリスマ社員がいる。二子玉川支店では支店長にした。どこかに不思議な感性を持っている。
2億円稼ぐ営業マンがいる。彼は会社に来ない。相手の会社に行ったきりだ。金庫番ではないが、懐を握ってしまっている。会社の中でいろいろ批判されても、「もっと稼ぐにはどうしたらいいか考えるべきだ」と。
金井 稼ぎ高だけなら評価されるが、逆に勝手なことをやって足を引っ張りかねない体質の人もいるので、資質をよく見て育てる必要がある。
金子 そこをどうコントロールするかだ。
太田 今でも外販は男性中心の営業パターンだが、活躍する女性社員が増えてきている。店頭では、今、佐々木さんや金子さんが言われたような人が店にひとりずつ、そこまでのレベルにいかないまでも、半分ぐらいのレベルでもいれば本当に強くなる。
昨年の新入社員も期待にこたえてくれている。
──商品開発も女性のチームでやらせると斬新なものができる。
太田 当社では女性だけの開発チーム「アターブル」を発足させ、女性の感性を活かして法人向けに企画提案させている。
金子 10月に日経新聞で、キャリア中途募集をした。応募は圧倒的に女性が多い。証券会社や外資系、いろんなところから来る。旅行会社で何がやりたいかと聞くと、やはり企画だ。「今の旅行会社のあり方はだめだ」と言って帰った者もいて、かなり積極的だ。今回、50人ぐらい採用した。支店に配属させて、それから企画に持ってこようと思い、今訓練中だ。
給料が安いと言っても、「給料じゃない」と言われる。それと、はっきり「有給休暇はいただきます」と。旅行会社のメリットを使って自分が旅行に行く。それはそれでいいでしょうと言っているが。
──インターネットを使ったビジネスの可能性は。
佐々木 一般のビジネスまで全部入れて売り上げの25%。観光だけなら15%ぐらいいくと思っている。
太田 全旅行需要に対してどうかとはなかなか予測しがたいが、5年後に当社は10%。この間意外に思ったのは、ヒルトンの副社長がアメリカから来て、アメリカにおけるヒルトンチェーンの予約で、ウエブの比率はどのぐらいかと聞くと、14%といった。40から50%あるのかと思い、フォーティーンかフォーティか聞き直した。意外と少ないという感じがした。
佐々木 わが社は今で2から3%だから、3年後は団体もすべて入れて7から8%か。
金井 私は何もかもひっくるめれば、3分の1ぐらいまで行くと思う。3年後は10数%。将来は3分の1まで。それについていけないところはますます売り上げが下がるわけだからどんどんウェートが高くなる。
金子 旅行業界全体から見ると10%ぐらいまでいくのでは。
消費構造が転換期に入った。デパートが消費のバロメーターといわれたが、政府が指標としなくなった。何でもありでいらっしゃいという時代は終わった。
金子 伊勢丹も男性専科、女性専科と絞り込みをしている。
金井 日本の人口のピークが2006年と言われている。しかし、15歳から64歳までの消費人口は既に減り出している。どの層を対象に商売するのかを決めないといけない。
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─旅館・ホテルへの提言─
──最後に、旅館・ホテルに対しての提言をいただきたい。
佐々木 規模が大きな施設は不調と言われている。しかし、そうした大規模なところでも、調子がいいところもある。話を聞くと、あれだけの大きな施設をいろいろな価格帯で分けて、いろいろなお客さまに提供している。そういう努力をしているところがある。お客さまのニーズがものすごく多様化していて、お風呂はみんな楽しみに行くだろうが、それ以外は十人十色。自分たちに合う、同じパターンのお客さまだけを相手にするという考え方は時代にはそぐわなくなっている。「今日はあの施設を高級に使う」「今日は宿泊のみに使う」、お客さまはそう考えているに違いない。
太田 この間感心したのは浜名湖周辺の舘山寺・弁天島一帯。地域としてものすごく努力をしている。それは、掛け声だけではない。郷土色豊かな料理の開発と演出をしたり、たまたま行った時に、夜桜の見学会があった。女将さんが全員夜出て、旅館からバスを出している。舘山寺と弁天島は行政が違う。それが一緒になってやっている。そして成功している。本当に素晴らしい。
金井 単館というか、自分の宿だけでどうのというのではなく、地域としてどのような魅力づけをするかだと思う。リーダーシップを持っている人がいるわけだから、きっちり組んで、手をつないでやっていくことがこれから大事なのではないか。
もうひとつは、今までエージェントがやってきた「はい、明日の朝○時に出発です」というパターンではなく、どうせ泊まったのならゆっくりして、いろんなお風呂に入ってみたいという、スローというか、ゆったりというか、そういう志向がだんだん増えると思う。宿に着いてから出発するまでの過ごし方のバリエーションを、どう工夫して増やしていくかが大事なテーマになるような気がする。
金子 長野県の松本周辺。上高地や安曇野、白馬、浅間温泉などは、行政が違うせいか、共同の宣伝をしていないが、もったいない気がする。浅間温泉には本当にいい旅館がある。りんごの風呂があったり、アルプスの山々を眺めながら風呂に入れたりする。キノコ料理や野沢菜、そばなど、料理もいい。こんなところがあったのかと。しかし、宣伝が行き届いていない気がする。
白馬東急ホテルに行って、野沢菜を何かの西洋料理に使えないかと注文したところ、それはできないという答えだった。なかなか地元のものを使ってくれない。そば打ちもハッピーリタイアした60代以上に人気だが、若い人にはお菓子づくりの方が魅力のようで、あまりやっていない。そのへんが変われば地域全体の活性化が図られるのではないか。
長野県には塩の道というのもある。清流には大きなニジマスが棲んでいる。この塩や地元のわさびを使ってニジマスの塩焼きを出すなど、面白いものができるはずだ。もっと自治体と旅館で、旅連も加わって、おらが町ではないが、おらが料理、おらが温泉をつくって宣伝してほしい。「自分で宣伝をしてもいいがお金がかかる。市に言っても何もやってくれない」。そんな声を耳にした。
太田 私は田舎で育ったが、子どものころ食べた料理が、ほかの地域から来た人には新鮮なのだ。そういう発見が地元地元で行われ、それが旅のコンテンツとなっていくのがいい。
国民の観光の動向
平成15年の国内宿泊旅行を行った回数は国民2人当たり平均2.11回(対前年比15%減)、うち宿泊観光旅行は1.28回(対前年比9%減)。宿泊日数は国民1人当たり平均3.96泊(対前年比15%減)、うち宿泊観光旅行は平均2.01泊(対前年比10%減)を示した。
国民の国内宿泊旅行は、10年程度のスパンでみると平成初期からの減少傾向が引き続き継続している。その原因は、個人消費の低迷や、割安な海外旅行商品が販売されていることもあると考えられる。
しかしながら、国民の国内宿泊旅行は、全体としては減少傾向にあるが、地域別にみると観光客が増加し、賑わいをみせる地域も多数ある。
(例)観光客増加の例(観光カリスマの貢献)
入込み客数:平成10年度→平成14年度
○山梨県高根町(259万人→694万人)
○宮崎県西米良村(5万人→13万人)
平成16年版「観光白書」から
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