ところ 東京・紀尾井町 福田家 司会 本社社長 江口恒明
利益の源泉はお客様 金井 社名変更で第2創業 金子 分社化の準備終わった 佐々木 販売の中身を変える 太田 ──話を聞いていると、今までよりは明るい見通しのようだ。JTBは06年の業績がかなり上向くと見ているのか。 佐々木 いやそんなには。前年比で101%の取扱高を計画している。105%とか110%とかの数字が出るとは思っていない。何が引張ってくれるかというと、我々は海外旅行の団体と読んでいる。来年度は企業がさらにインセンティブを強めていく。あと、個人の方について言えば、ちょっとワンクール遅れているが、減税の問題がまだ先であれば、もう少し強く旅行に行ってくれるのではないかと思う。 ただ、警戒しているのは、ネットエージェント。じゃらんnetの急激な伸び方を見ると、どうも当社の販売でも箱根とか関東地区の近間の旅館についてはだいぶ影響を受けたのではないかと思っている。じゃらんがどうこうという意味ではなく、お客さまがネットエージェントの旅館の1泊2食料金を信頼し始めたという現象を非常に警戒している。 従って06年の国内旅行は、強く伸びる所もあるし、逆もある。合わせると、結果として堅調に行くと計画している。 ──4月1日に分社化するが、余剰人員のリストラも狙いの1つなのでは。 佐々木 駄目な人を削るとかではない。話の筋は世の中の変化に対応できるスピードを上げようということだから、結果としてそれぞれの事業会社は独自に戦略を練っていくということになる。要するにふわっとした店舗だとか、総合型で市中で複数店舗を展開しているような事業会社は2年、3年たつと数字が落ちてくる可能性がある。今のやり方で、今の賃金で、全員が分け隔てなく永遠にできるかというと、そういうわけにはいかない。 JTBがなくなるので、7500人の社員が会社を選んで移籍する。それぞれの社員が6カ月ぐらい、かなり真剣に考えて選んだ。その過程で改めて自分がJTBに対して何をしたいのかを真剣に考えた、そういう意味では社員のモチベーションが上がった。先行実施したJTB東北の例を見ると設立の4月1日になったら社員の気持ちがきれいに切り替わって、集中力が増している。もう準備は終わったようなものだ。 ──近畿日本ツーリストの06年の業績見通しは。 太田 売上高がそう大きく伸びるという計画はしていない。06年度は3カ年の中期経営計画の初年度で、前年度対比102%台の売上高を見込む。その売上高の中身の構成を変えていくのが計画の主旨だ。きっぷや航空券とかの単品の代売はどんどん手から離れ、減少していく。それを他で補うのが中期経営計画の考え方。宿泊券はしっかり守っていかなければならない。しかし、代売としてだけではなく、宿泊を企画旅行のコアのコンテンツとして捉え、宿泊に付加する企画提案、商品開発を推し進め、増売につなげていく。 一例として、05年に当社では創立50周年を記念し、「美しい日本の『歩きたくなるみち』5百選」に選ばれた地域を対象に、「みち」を生かした「観光まちづくり」の企画を自治体や団体から募集した。全国183の地域から188件の応募があり、その中から「地域ブランディング大賞」として優秀企画を顕彰し、5コースを地域ブランディング大賞受賞記念商品として「にっぽんを歩こう」と題して10月から商品化した。06年も入選企画の商品化を進めて、宿泊券の増売につなげていく。それと、団体旅行はイベント・コンベンション・コングレスを中心としたソリューション営業でしっかり守っていくというスタンスでいる。 社長就任以来数々の構造改革を断行し、財務体質もきれいにし、復配の実施も達成した。これからは後ろを振り返ることなくまさに前進あるのみという状態に入った。そういう意味で社員のモチベーションはすごく上がった。05年度の業績予想は既に8月に発表した。 でも、ネットの問題はなかなか深刻になってきた。これまで夏場の最後の追い込みは宿泊券でやっていたのだが、05年の夏はそれがなかなか効かなかった。 ──日本旅行は、旅行会社として初めて百周年を迎えたが。 金井 まず05年は、百周年という当社にとっては大きなエポックであったので、それをきっかけにいろいろな試みをやってみよう、あるいはいろいろな振り返りをやってみようと取り組んだ。先ほど来、業績の話が各社からあったが、当社も傾向としてはほぼ同じような状況だ。1月から6月までの上期はまずまず、夏場に少し停滞気味になって、また10月以降少し持ち直した。大きな流れで言うと、こう。やはり国内も海外も団体が非常に伸び悩んでいるというのが、かなり顕著な傾向として出ているので、これをどう解決していくのかが06年の大きな課題だ。 06年のテーマはいくつかあって、1つは百周年をきっかけにして始めた新しい事柄がいろいろあるので、それをどうやって持続させるかということに相当真剣に取り組まなくてはいけない。もう1つは「イノベーション」という5カ年計画を実施しているのだが、今、ちょうど折り返し地点に来て、05年度はステージを2つに分けた第1ステージの仕上げだったのだが、団体が伸び悩んでいるとか、必ずしも思った通りにいっていない部分もある。振り返って考えてみると、アクションプランを決めて実行してきたのだが、どうもそのこと自体が自己目的化してしまったようだ。利益を広げて基盤を強めていくために我々が一番必要な、お客さまに選んでいただくということが、いつの間にか忘れ去られてしまって、これをやらなければ、あれをやらなければということだけが、意識の中に強くなってしまったのではなかろうか。 そこで、ちょうど真ん中に来ているから、06年度の取り組みとしては、少し原点に帰るような話だが、もう一回、「我々の利益の源泉はお客さまなんだ」ということを再認識し直そうではないかと社内には強調したい。これを踏まえたうえでいろいろな施策に取り組み、営業の成績につなげていきたいと考えている。 ──東急観光は1月31日に「トップツアー」へと社名が変わる。今後の展開は。また、再上場はあるのか。 金子 04年にご存じの通り大株主が変わり、さまざまな変革への取組みを行ってきた結果、04年、05年と2年かけて、減損を含めて借金をすべて返済できたということが、この2年間の大きな成果だ。過去を振り返ると、当社は長い間、上期は赤字、経常利益を出せない会社だった。それを、私が社長を引き継いで6月中間決算で確実に黒字に転化させた。全国の支店を行脚して社員と話をしたなかで、やればできるではないかということで、社員のモチベーションが上がってきたなと感じる。 また、労働組合問題という問題も抱えていたが、根気強く話し合いを続けてきた結果、11月2日に組合と和解した。これからは労使一体となって新しい東急観光を目指していく。06年は50周年を迎えるとともに、社名も変更する。新たな社名は社員2千人全員で考えようと決め、社内募集を行った結果「トップツアー」という名前が生まれた。社員の中には社名が変わることに不安を抱く声もあったが、自分たちが名前を決めたトップツアーでこれからがんばっていくんだと、今はモチベーションが上がっている。 06年は、50周年であり、トップツアーとして第2の創業という非常に大切な年、そして再上場についても必ず果たす決意で進めている。 当社は渉外営業中心の会社であり、優良な日本の大手企業との取引をどう伸ばしていくかということが06年の課題。もう1つの課題は、旅館券の販売が非常に厳しいという状況のなかで、ネットの販売で、単品、旅館券は伸ばしていかなければならない。
個人旅行の販売で脅威 佐々木 伊豆への影響は大きい 金子 店舗や人で強みを発揮 太田 部分的には組めるはず 金井 ──じゃらんnetや楽天トラベルなどネットエージェントの躍進が目立っている。最近では宿泊施設をオークション形式で扱うネットエージェントも出てきている。旅行会社にとって今一番の問題点と言えるのだろうか。 佐々木 そうだ。ネットエージェントは、法人関係にとってはそんなに大きな脅威にはならないと思うのだが、個人旅行の販売には影響が出ている。正直、ネットがここまで早く個人に普及するとは思わなかった。また、情報を集める手段としてもますます貴重になるが、すべてがネットに置き換わることはないだろう。 ──旅館・ホテル側から見た販売で言ったら、ネット経由の予約率は今後伸びたとしても10%ぐらいだと思うのだが。 佐々木 私も10%ぐらいだと思う。近場の宿に対しての予約をネットからすることはあるが、首都圏の人が九州の宿にまでやっているかというとそうではない。ノーショーも増えているし。 金子 当社の販売は特に伊豆が強いのだが、ネットエージェントによる伊豆への影響は大きいと見ている。そこを考えてみると、東北など地方地域への首都圏のお客さまのネットの影響力は10%もいかないが、伊豆は10%か20%ぐらいはいくかもしれない。キャンセル料の問題を旅館がどうとらえるかで変わってくるだろう。 金井 私は、旅館から見て3割くらいはいくだろうと思う。江口社長のこの質問に対して、前々からこう言い続けている。 太田 旅館によっては、ネットエージェントからの予約が予約全体の半分ぐらいを占めているところもある。 金井 パソコンのインターネットというのは世帯普及率が9割近い。そうすると、パソコンを使っての予約はある意味では頭打ちになる。これからはモバイルだろう。 太田 今までのネット販売はパソコンで予約するイメージがあるが、それと並んで、携帯電話がこれからパソコン化していくと考えている。当社では「カシャ旅予約」といって携帯電話を使いパンフレット上のQRコードから直接予約、課金するシステムを開発した。さらにドコモ、au、ボーダフォンさんの公式サイトに当社の宿泊企画商品を入れ、モバイル販売に力を注いでいる。 金井 それがITだ。モバイルの動きがこれから影響する。携帯などで決済まで行うとか、いろいろな組み合わせがものすごく多様化する。 ──そんなにうまくいくのだろうか。若者中心ではないのか。 金井 それは、使いこなせるということで言えば一定の年齢から下になるだろう。 太田 熟年の方も、株の取引などにインターネットをかなり使うようになってきている。当社では「楽宿」という宿泊予約サイトの売り上げが急速に伸びているが、さらに新規事業として、旅行運営サイトのマーキュリー22と組んで有料会員制の新たな宿泊予約事業を行っていく。 金井 今後、モバイルなどの扱いが簡単になる。そうなって、さらに拍車がかかるはずだ。 金子 国際線のeチケットも携帯のモバイルで入手するシステムがでてきている。 太田 ネット専業者が持っていない店舗や人をWeb販売と融合させ、これを強みに変えていく。また、パンフレットも旅行会社にとっては最大のメッセージのツールだ。とはいっても、従来と同じことをやっていては駄目だろうが。 金井 私の意見もそれに近い。例えば、ネットというかITのポイントがどんどん高まるとしても、我々が常にそれと敵対して、勝った負けたという議論でやっていかなければいけないのかというと、そうではない。ある部分では組めるはずだ。しかもその組む場合に我々の今持っている強み、例えば、リアルのお店と、バーチャルというかネットなり何なりと融合させていくという発想があってもいいと思う。最初の情報をネットで見たお客さまに対して、どう実際に店のカウンターで対応していくかということも考え出していかないといけない。いろいろな配信ルートがあるわけだから、最初の情報は我々からでなくてもいい。本当に安心してもらうために、店のカウンターできちんとした裏付けをしてあげるというやり方だってある。 リアルな店舗というのは必ずしも収支で言ったら全部見合っているわけではない。しかし、全部店を潰してしまうというのは、採算としては余計なコストがなくなっていいということになるかもしれないが、それをやってしまったら逆に我々の存在価値がなくなる。DMだけで旅行を買ってくれるお客さまもいるのは確かだが、お店に来て買ってくれるお客さまだってあるのだから。 そういう意味で、今まで通りでいいとは決して思わないが、やりようによってまだまだやれることはずいぶんある。残念ながらそれが見つけられなくてあたふたしているというのが今の実態だ。女性社員だとか若手社員だとかに自由なことをやらせていけば、それなりの道が少しずつ見えてくるのではないか。
基本15%の成果報酬型 太田 上乗せの“依頼”やめる 金子 “楽する社員”まだいる 佐々木 決めたルール必ず守る 金井 ──JTBは客室の買い取りを試行するなど、近年は各社とも旅館・ホテルとの契約や手数料の見直しを始めているが、いまだに不満の声を聞く。手数料が高いという意見も根強くあるが、今はどちらかというとあきらめ気味に、手数料は現状でいいから、「客室を早く返してほしい」ということと「基本の手数料以外にややこしい費用をかぶせないでほしい」という要望のようだ。 佐々木 返すということで言えば、新しい「HR2」を作ったから前進はしていると思う。ややこしいことをかぶせるということはしないという考えに、本社サイドは統一見解でいるが、必ず仕入部門だとかから旅館・ホテルさんに依頼の文書が流れる。これはやめる。 ──社長は「やめる」というが、現実はそう簡単にはいかない。 佐々木 先ほどから皆さんが言われているように、旅行業の生命線は宿泊券だ。しかも販売量に限りがあると皆分かっている。だから、そのあたりは今までよりははっきりとシャープになっている。ただ、完璧でないのは間違いない。 太田 当社は基本15%で、成果報酬型。前年の103%伸びたらこれだけくださいという握りはしている。4ランクぐらいあり、取り決めたルールを守っていきたい。 金子 当社も江口社長が言われるようなことがあったので、旅行業務本部という部署を作った。そして私は、「旅行業務本部で聞きいれてもらえないことがあったら、私に直訴してほしい」と各地域の旅連を回ったなかで話したところ、05年は3件ぐらいそういう話があった。なくしていこうと決めたことを決めた通りにやろうとするのだが、現場にしてみれば成績を上げるためにはどうしても考えがちなこと。どこかでそういう話が起きてしまう。しかし、これはしっかりと直していかなければならない。。 佐々木 旅館さんが見る限り、「JTBの社員は傲慢だ」という声が結構ある。それは結局、社員が心の中に、かつての黄金時代のエージェントと旅館の関係をそのまま残しているからだ。現実は、もう全然違うということを経営の方も、本社も分かっているのだが、社員の行動は変っていない。だから、文書1つ見ても、「何でこんな不可解なことを書くんだ」という内容もある。旅館さんとコミュニケーションをとっているんだったら、もう少し書きようがあるんだろうが、すぐ網をぽーんとかぶせたがる。要は楽して利益が上がるという黄金時代の感覚がそのまま残っている社員もまだいるかもしれない。 ──旅館も今、困るところまで困っている。それは時代が違うのだから変えてもらわないと、旅館と旅行会社との信頼感が生まれない。 金井 お互いに決めたルールはルールだから守らないといけない。本来、交渉すべきではないところが直接話に言ったりすることがどうもあるようだが、そういうのはやめさせないといけない。